日本漢文の世界

漢訳不如帰



不如帰の浪子(黒田清輝 画)

 明治44年の出版の『漢訳不如帰』は、和文漢訳の傑作のひとつです。その特徴は、近代小説の漢訳である点にあります。
 原作は徳富蘆花の『不如帰』(ほととぎす)です。これは明治のベストセラー小説で、発行部数は当時としては記録的な50万部にのぼったといわれています。夫婦愛を描いた日本初の小説であり、夫の不在時に病気を理由に理不尽な離縁をされ、淋しく死んでゆくヒロインの悲惨な運命は、当時の読者の涙をさそいました。モデル問題も取りざたされ、新派演劇の演目にもなったことから、誰もが知る作品となり、ロングセラーとなったものです。地の文は易しい文語文ですが、会話文は当時の口語をそのまま写しており、九州弁や関西弁も登場しています。人物の描写も活き活きとしており、文学的な価値うんぬんはさておいて、今読んでも十分に面白いものです。
 原作の非常にドラマティックな展開を、達意の漢文に訳した杉原夷山の手腕も、すばらしいと思います。

※『漢訳不如帰』は、徳富蘆花の『不如帰』の杉原夷山による全訳です。長期間にわたり、すこしずつ連載する予定です。

※原文は、民友社原版(三版 明治33年4月刊)に拠りました。漢訳は、千代田書房(明治44年4月)版、英訳は、誠文堂(大正6年9月)版に拠っています。

※徳富蘆花の『不如帰』原文のかなづかいは、当時の慣行によるもので、いわゆる「歴史的かなづかい」には一致しない部分が多く見られますが、改めていません。

※訓読は、できるかぎり原漢訳書の訓点・送りがな・読みがな等にもとづき、訳者の意図した訓読を再現することに努めました。

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徳富蘆花の『不如帰』について
『漢訳不如帰』について
漢訳者・杉原夷山について
(一)の一 (1)
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(一)の二 (2)
(一)の二 (3)

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2009年9月6日公開。2009年10月12日追加。2022年8月31日追加。