日本漢文の世界

 

漢訳不如帰







漢譯不如歸 上篇 (一)の二(3)

[漢訳] 漢譯不如歸4頁
 婦亦愀然而泣。媼少焉乃攬涙曰。恭人請恕之。妾耄耋歸愚。呵呵。且正襟曰。恭人貞淑。克耐萬酸。以至今日。郎君温厚正實。有氣節凌霜之概。恭人自今修從良之德。蓋樂事至矣。果如此。媼亦不堪忭賀也。時亭婢報郎君之還。聲如破鐘。田舎之婦。往往大聲驚人。婦媼聞之唖然。



愀然・・・悲しみにたえない様子。
恕・・・・ゆるす。寛大に取り扱うこと。
耄耋・・・おいぼれ。「耄」とは90歳、「耋」とは70歳のことをいう。
呵呵・・・笑い声を写した語。この漢訳では、会話文に写された笑い声「おほほほ」をほとんど閑却しているが、自嘲的な笑いの場合のみ「呵呵」と訳している。(漢語「呵呵」には自嘲の意味はないが、わが国では自嘲の文脈で用いられる。)
貞淑・・・女性が節操高く、賢くてしとやかであること。
概・・・・品格。度量。「・・・の概がある」は、その人を度量を称える言い方として、日本語でも定着していた。(現在では、あまり使用しない。)
從良・・・ここでは、婦人としての夫に仕える勤めを果たすこと。しかし、中国での用例では「従良」とは、奴隷が自由の身になること、もしくは妓女の身請けのこと。浪子も結婚により一種の奴隷的生活から解放されたわけだが、ここではそういう意味で用いられているのではなさそうだ。
忭賀・・・よろこび、祝福すること。
亭婢・・・旅館の女中という意味の造語。
破鐘・・・われがね。ひびの入った鐘のこと。日本語で「われがね声」といえば、われがねを鳴らしたような太い大きな声のことだが、漢語の用例はない。
唖然・・・あっけにとられる様子。
※原作の「女中の聲階段の口に響きぬ。」という一行を、女中の声が破鐘のようだとか、田舎の女は、ときどきびっくりするような大声を出すとか、原文にない説明をつけている。おそらく、訳者に苦い経験があり、つい筆が滑ったものか。


2009年10月4日公開。

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