日本漢文の世界

 

漢訳不如帰







漢譯不如歸 上篇 (一)の二(3)

[原文] 民友社版5頁; 岩波文庫(新版)9頁
 此方(こなた)引入(ひきい)れられるる(やう)(うつぶ)きつ。火鉢(ひばち)(かざ)せし右手(めて)指環(ゆびわ)のみ燦然(さんぜん)()(わた)る。
 ややありて(うば)(おもて)()げつ。「御免(ごめん)(あそ)ばせ、また此樣(こん)(こと)を。おほほほ(とし)()ると愚癡(ぐち)つぽくなりましてねェ。おほほほほ、御孃(おじよう)――奧樣(おくさま)(これ)までは色色(いろいろ)御苦労(ごくろう)(あそ)ばしましたねェ。本當(ほんたう)によく御辛抱(ごしんばう)(あそ)ばしましたよ。最早(もう)最早(もう)()れからは御目出度(おめでたい)(こと)ばかりで(ござ)いますよ、旦那樣(だんなさま)(あの)(とを)()やさしい御方樣(おかたさま)――」
 「御歸(おかへ)(あそ)ばしまして(ござ)います」
 と女中(おんな)(こゑ)階段(はしご)(くち)(ひび)きぬ。



2009年10月4日公開。

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