日本漢文の世界

 

漢訳不如帰







漢譯不如歸 上篇 (一)の一(2)

[訓読]
 亭(てい)に三層閣(さんそうかく)有(あ)り。時(とき)に戸(と)を開(ひら)く。晩霞(ばんか)一抹(いちまつ)、好景(こうけい)畫(ゑが)くが如(ごと)く、囑目(しよくもく)殊(こと)に豁(ひろ)し。遠(とほ)きは則(すなは)ち日光(につくわう)・足尾(あしを)の諸峰(しよほう)、翠(すゐ)を攅(あつ)め嵐(らん)を疊(たた)み、近(ちか)きは則(すなは)ち小野(をの)・子持(こもち)・赤城(あかぎ)の諸山(しよざん)、委蛇(ゐだ)曲折(きよくせつ)、秀(しう)を爭(あらそ)ひ峻(しゆん)を競(きそ)ひ、粲然(さんぜん)として眉睫(びせう)に列(れつ)す。
 日(ひ)既(すで)に落(お)ち、餘暉(よき)峰巒(ほうらん)に映(えい)じ、晩鴉(ばんあ)樹(き)に噪(さは)ぎ、鐘聲(しようせい)暮(ぼ)を報(ほう)じ、暝色(めいしよく)遠(とほ)き自(よ)り至(いた)り、四望(しばう)蒼然(さうぜん)、須臾(しゆゆ)にして咫尺(しせき)を辨(べん)ぜず。唯(た)だ闇中(あんちゆう)佳人(かじん)の素顔(そがん)雲(くも)の如(ごと)きを認(みと)むる而已(のみ)。家家(いへいへ)既(すで)に燈(とう)を點(てん)じ、樓上(ろうじやう)依然(いぜん)欄(らん)に凭(よ)る。

三層閣・・・三階建ての建物。
囑目・・・目を向けること。
翠を攅め嵐を疊む・・・緑がきれいな形容。
委蛇曲折・・・うねうねと曲がっている。
粲然・・・くっきりあざやかな様子。
眉睫に列す・・・近くに迫って見える。
餘暉・・・夕日の光。
峰巒・・・山山。
暝色・・・夜の暗さ。
素顔・・・白い顔。
凭る・・・もたれかかる。

※蘆花得意の自然描写が展開されている段だが、二つの雲の描写が、漢訳では完全に省略されてしまっている。


2009年9月6日公開。

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