[原文] 民友社版3頁; 岩波文庫(新版)8頁
「御孃――おや如何致しませう、また口が滑つて、おほほほほ。あの、奧樣、唯今歸りまして厶います。おや、眞闇。奧樣エ、何處に御出遊ばすので厶います?」
「ほほほほ、此處に居るよ」
「おや、ま、其處に。早く御入り遊ばせ。御風邪を召しますよ。旦那樣はまだ御歸り遊ばしませんで厶いますか?」
「如何遊ばしたんだらうね?」と障子を開けて內に入りながら「何なら帳塲へ其樣言つて、御迎人をね」
御孃・・・女主人は結婚したので「奥様」と呼ぶべきだが、いままでの習慣で「御嬢様」と呼びそうになり、あわてて言い直した。
2009年10月4日公開。