日本漢文の世界

 

月ヶ瀬梅渓(月瀬記勝)








梅谿遊記二現代語訳

 一目千本は、尾山八谷(おやま・やたに)の一つである。梅花が最も多いので一目千本という名がついたのは、吉野の桜谷(にある一目千本)をまねたものであるという。私は、同好の友らと三学院を出て、前の崖を降りて行った。山も川も梅花も、すでに絶妙な状態である。気の向くままに歩いて行くと、大きな谷へ出た。文稼はこの場所を知っているという。小道をくねくねと登ると、道の両側を花が挟みこんでいる。その間を歩くと、まるで白雲を踏んで歩くようである。数百歩(数百メートル)行くと山の頂上に着き、下を見ると、みわたす限り花で真っ白である。花の白い色が山や川に照り映えている。
 私はかつて吉野を遊覧し、吉野の一目千本を見た。そこは月ヶ瀬の一目千本と同じく花は多いが、月ヶ瀬のような山と川の景勝はない。また、かつて京都の嵐山の桜も見た。そこは月ヶ瀬と同じような山と川の景勝はあるが、花は少ない。
 さらに中国の名所と比較すると、杭州の孤山は、場所は静かで隠れたところにあるが、梅花は少ない。蘇州の鄧尉(とうい)は、花はすこぶる多いが、土地はにぎやかで騒がしすぎる。ただ羅浮山の梅花村だけは、高い山と向き合い、冷たい川が近くを流れ、梅花はもっとも多い。梅花村だけは、わが梅渓に比肩しうるだろうか。
 日はすでに暮れてたそがれ時となり、梅花は薄もやの中に隠れ、千本の梅の木はぼんやりとかすみ、どこまで続くかも見えなくなった。どこからともなく花の香りが漂ってきて、我々を包み込む。近づいても(花の)色が識別できぬほど暗くなってから、その場を離れた。


2019年5月2日公開。

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