日本漢文の世界

 

月ヶ瀬梅渓(月瀬記勝)








梅谿遊記二語釈

一目(ひとめ)千本(せんぼん)

代官坂を降りていくと途中になだらかなところがあり、そこを一目千本と云っている。かつてはここにあるとおり絶景であったが、今は梅の木が少なく見る影もない。最近、梅の木を植樹している。

尾山(おやま)八谷(やたに)

尾山の八つの谷。梅の木が多い。八つの谷の名称は、記五に列挙されている。すなわち1敞谷(ほうらだに)=現在は帆浦(ほうら)と書く。2鹿飛(しかとび)。3搜窪(さがしくぼ)、これは天神森の崖下である。4祝谷(いわいだに)、5菖蒲谷(しょうぶたに)、6杉谷(すぎたに)、7一目千本(ひとめせんぼん)、8大谷(おおたに)である。

芳野(よしの)

奈良県の吉野。桜の名所として有名。

櫻谷(さくらだに)

吉野には「桜谷」の地名はないが、桜の木が密生する渓谷という意味で言ったもの。

()

まねる。ならう。

同人(どうじん)

趣味の合う友人。

佳絶(かぜつ)

絶妙であること。

詰曲(きつきよく)

屈折していること。

下顧(かこ)

下を見ること。

彌望(びばう)

見渡す限り。満眼。

皜然(かうぜん)

真っ白な様子。

谿山(けいざん)

谿は渓に同じ。川と山ということ。

輝映(きえい)

景色と光が相互に照り映えること。

嵐山(あらしやま)

京都の嵐山。

西土(せいど)

中国(China)のこと。拙堂先生はもちろん中国に行ったことはないが、詩文で読んで得た知識で、中国の梅の名所について論じている。

(かう)

中国の浙江省杭州市。南宋の首都として栄え、13世紀には世界最大の都市であった。呉自牧の『夢粱録』、耐得翁の『古杭夢游録』等にその栄華が記録されている。西湖や観濤で有名な銭塘江があり、景勝地として知られている。近年はハイテク産業も盛んとのことである。

孤山(こざん)

杭州市の西湖の中にある島。北宋の詩人林逋(りんぽ)はこの場所を愛し、梅を三百株植えて「山園」と称し、庵を結んで約二十年間隠遁生活をしたという。

(きやう)

場所。区域。

(いう)

静かで隠れた場所。人里離れた場所。

寥寥(れうれう)

数がすくない様。

()

中国の江蘇省蘇州市。上海に隣接している。運河の街として有名で、東洋のヴェニスと称されている。

鄧尉(とうゐ)

鄧尉山は蘇州から約30キロメートルほど離れたところにある。梅の木は数十万株あるといわれ、開花期には花が雪のように見えるため、「香雪梅」と呼ばれている。清代に観梅で有名な観光地となり、康熙帝、乾隆帝等、皇帝たちも何度も訪れた。

熱鬧(ねつだう)

にぎやかで繁盛している様子。口語(俗語)。

羅浮(らふ)

広東省増城県北東にある山。多くの山峰が連なっており、洞窟も多く、奇観で有名である。蘇軾をはじめ、多くの文人に愛された。

梅花村(ばいくわそん)

羅浮山のふもとにある梅の名所。柳宗元や蘇軾の作品にも出てくる歴史ある場所だが、現在は月ヶ瀬と同じく梅の木も減り、寂れているようである。

峻峰(しゆんぽう)

高い山。

寒溪(かんけい)

冷たい川。

斂昏(れんこん)

夕暮れ。

淡煙(たんえん)

薄いもや。

依約(いやく)

ぼんやりとしていること。

暗香(あんかう)

どこからともなく漂う香り。

蓊葧(をうぼつ)

草花の香がさかんにかおる様子。

(ひと)(おそ)

花の香りにつつみこまれるという意味の慣用表現。

溪聲(けいせい)

川の音。

咫尺(しせき)

近い距離。


2019年5月2日公開。

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