記の七
還嵩村に抵り、舟を舍てて岸に上る。緑竹數畝水に臨むも、亦梅溪中少く可らざる者也。西麓は梅花亦多し。月瀨の花と相連なり、爛として銀海を成す。西行すること數百歩、花間阪を得、螺旋して上る。寔れ月瀨為り。山腹の香雪中に一大石を出す。苔蘚之を被ふ。蒼欝愛す可し。踞して少しく歇ふ。益上りて巔に至る。眼界豁然たり。谿山呈露し、藏匿を得ること無し。花山に溢れて壑に填つ。彌望皜然たり。譬へば泰山の頂に登りて、大地を下瞰すれば皆白雲なるが如し。是れ梅溪の全真を得る者也。宜なる乎、月瀨の名の獨り顯はるるや。其の名の雅馴なるに止まらざる也。
適天復陰り、雪大に至る。風之に薄り舞蝶の空を塞ぐが如し。亦奇觀也。溪を下り渡を索めて還る。
2019年5月2日公開。