日本漢文の世界

 

月ヶ瀬梅渓(月瀬記勝)







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 (すで)にして(てん)()()()づ。近午(きんご)(ゆき)(ことごと)()ゆ。(すなは)()きて南㟁(なんがん)(しよう)()んと(ほつ)す。()きて一目千本(ひとめせんぼん)(もと)(いた)る。(ふね)南㟁(なんがん)(よこ)たはるを()る。(すなは)嵩村(だけむら)(わたし)(なり)(みづ)(へだ)てて(これ)()べば、(らう)篙夫(かうふ)一聲(いつせい)して應答(おうたふ)し、叢竹(そうちく)(ちう)()()づ。(ふね)(さおさ)して(きた)()す。()(しう)()ひて(いは)く、「北㟁(ほくがん)山路(さんろ)崎嶇(きく)にして()(がた)く、(いま)()(しよう)(つく)すこと(あた)はず。()(さき)(これ)()て、(しか)(のち)(みなみ)(およ)ぶは如何(いかん)」と。(しう)(いは)く「()なり」と。(すなは)(めい)じて(けい)(さかのぼ)真福寺(しんぷくじ)(もと)(いた)る。嵓石(がんせき)齗齶(ぎんがく)(ふね)()む。(すなは)(かへ)る。
 尾山(をやま)(うめ)(たに)(もつ)(はか)る。八谷(やたに)(おのおの)數百千(すうひやくせん)(じゆ)真福(しんぷく)()極西(きよくせい)()り。()(しも)初谷(しよこく)()し、()づけて敞谷(ほうらだに)()ふ。第二(だいに)鹿飛(しかとび)()ふ。第三(だいさん)搜窪(さがしくぼ)()ふ。()(うへ)天狗巖(てんぐいは)()り。羽客(うかく)棲止(せいし)する(ところ)なりと()ふ。第四(だいし)祝谷(いはひだに)()ふ。第五(だいご)菖蒲谷(しやうぶたに)()ふ。第六(だいろく)杉谷(すぎたに)()ふ。第七(だいしち)(すなは)一目千本(ひとめせんぼん)第八(だいはち)大谷(おほたに)()ふ。(はな)(おほ)きは一目千本(ひとめせんぼん)(あひ)頡頏(けつかう)す。(あひ)(へだた)ること(みな)數十歩(すうじふほ)()ぎず。()(しよう)(おのおの)(こと)なり。(ことごと)くは(じやう)する(あた)はず。(ただ)諸谷(しよこく)(はな)は、前㟁(ぜんがん)(やま)と、谿(けい)(さしはさ)みて(あひ)(えい)ず。(ふね)()(かん)()く。杳然(えうぜん)として仙路(せんろ)(とほ)からざるを(おぼ)ゆ。()(もつと)()()(なり)公圖(こうと)(かつ)(ここ)(あそ)び、()()(いは)く、「梅花(ばいくわ)(また)(おのづか)僊源(せんぐゑん)()り」と。(まこと)(しか)り。()(これ)()ひて(いは)く、「桃花(たうくわ)凡俗(ぼんぞく)(いま)仙源(せんぐゑん)(へう)するに()らず。()をして(しん)桃源(たうぐゑん)なる(もの)()らしめば、(つひ)梅溪(ばいけい)仙趣(せんしゆ)()るに()かず。()彭澤(はうたく)()(いたづら)(ちから)(つひや)(のみ)(うら)むらくは(かく)(ごと)きの(しよう)目擊(もくげき)せしめざることを」と。公圖(こうと)首肯(しゆこう)する(こと)(これ)(ひさ)しうす。


2019年5月2日公開。

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