記の四
花月の賞已に畢り、還りて宿に就く。夜已に三更を過ぐ。疲るること甚し。一睡して曉に到る。覺むれば則ち奇寒骨に沁む。紙牕甚だ白し。起ちて戸を推せば、雪平地に積ること三四寸なるを見る。奇なりと連呼して又酒を呼び、滿引して大に釂す。同人と出で、復真福に赴き、昨夜月を翫びし處に到る。溪山異ならずと雖も、丹崖・碧巖悉く化して白玉堆と為る。花も亦素彩を加ふ。粉傅何郎の面の如く、其の美更に增す。一俯一仰すれば、目に入るもの皚然たり。獨り溪光は益碧く、縹玉の色を作す耳。楳溪の清は是に於て極まる。
古人梅を論ずるに、「雪に三分の白を讓る」と謂ふ。然れども雪は白を以て勝り、梅は艷を以て勝る。各佳趣有り。韓退之雪梅を詠じて云く、「彩艷相因らず」と。是れ定論と為す可き已。
此の行既に花月の奇を收め、今又雪梅の清を并す。天の我に賜ふこと何ぞ厚き也。往きて前路の勝を覽んと欲し、歩履艱きを以て止む。
2019年5月2日公開。