岩窟瀑
原泉混注す
呉策書
海崖
巖窟は飛瀑を噴く
其の高さ二丈強
源の在る所を知らず
雲木は蔚蒼蒼たり
旭莊主人謙
數町にして、左方に峭崖あり。巍然として雲を拂ふ。巓は老松を戴せ、腹に楓及び他の卉を抱く。此を過ぎて岩窟瀑に抵る。其の右旁に岩窟有るを以て名を得。長さ二丈可り。初也直流皓然たり。半腰に至りて迸散し、輒ち錯然として亂射す。聲濺濺然として、狎玩す可し。潭は清淺にして、磯有りて前に在り。六七人を坐せしむ可し。瀑の勝は此に究まる。諸瀑深潭有るに非ずんば則ち危巖あり。故に奇勝觀る可しと雖も、其の人意を暢舒するは則ち未しなり。此に至れば則ち險已に盡き、潭水汲む可し。
於以に瓢酒を傾け、疲憊を息むに宜しと爲す。蓋し奇勝の始まる所、游覽の終る所、造物豈に布置に意有らん歟。
岩窟は頗る深闊なり。林中に在りて、其の前は溪の如し。而して石多く水無き者を逆川と呼ぶ。聞くならく甚雨大に漲ぎるの日、澗幅窄狹にして容るること能はず。則ち水旋回して、此を經て林を繞り、溢れ出でて下流に合すと。乃ち逆行の勢有りと云ふ。
是從りして上れば、澗漸く狹まり、水漸く細し。源は蓋し遠からざる也。
夫れ瀑の高き者奇なる者は、天下何ぞ限らん。然れども概ね一處に五六に過ぎず。今赤目の如きは、瀑多きに止らず、又潭と地との妙を兼ぬ。實に天下罕に有る者爲り。此れ余の記を作りて後人を導きし所以也。
拙堂先生評
前記 奇勝目下に在り。筆凡ならず。人神をして瀑下に逝かしむ。
後記 前記の載する所已に奇なり。然るに人猶之を識る者有り。後記の載する所に至つては、從前未だ之を文字に載するを聞かざる所なり。前後皆破天荒と爲す。而して後記の文は更に奇と爲す。是れ其の絶奇の境爲るを知る可き也。
觀瀑圖誌を讀む
山飛び水立ち幽奇を闘はす
靈秘千年世未だ知らず
始めて天荒を破る椽健の筆
聲名忽ち四方を噪がして馳す
雙石七十九齢賡
2017年3月26日公開。