縋り藤潭
古藤月を挂く
北渚生吳策
海崖
縋り藤潭
岩と潭と險惡を爭ひ
游客膽先づ寒し
行きて途窮まる處に到れば
藤に縋りて劣かに看ることを得
旭莊
既に前澗の諸瀑を歷觀し、龍が壺を過ぎて行くこと町許り。一潭有り斧潭と曰ふ。兩崖は石壁劃然として行く可らず。蹊を其の左肩に索む。唯だ頽崖の一道のみ有り。廣さ財かに身を容る。而して頑石目に滿つ。之を躡めば滾轉して他石と觝激し、躍りて以て水に入る。一たび跌けば止まる可らざるの勢有り。復た草樹の援く可き無し。故に兩手先づ地に據り、足其の躡む可き者を審らかにし、然る後に敢て上る。前人石を轉がさば、必ず後人に觸る。既に登れば降らざるを得ず。而して亦險絶。陡崖澗上に峭立す。其の前、土の斷ずる者丈許り。由りて足の措く無し。但だ三つの小木を架して棧と爲す有り。棧を諦視すれば、半ば朽ち半ば菌し、脚の蹈むに堪へず。乃ち手は樹に縋り、足は棧を蹐み、肩は崖を摩して以て降る。
復た澗に沿つて行くこと町餘り。一奇流を見る。三四十歩の間、全石を底と爲し、紆余して下る。其の水、或は躍り、或は撞き、或は曲直す。要するに三折の致有り。其の潭に落つるや、石有りて其の衝を折く。水輙ち粼涒・旋退し、勢を斂めて後進む。殊に姿態有り。名無きは恨む可し。潭は縋り藤の稱有り。姑く此を假りて以て之を稱揚す。
2017年3月26日公開。