日本漢文の世界

靈蛇瀑現代語訳

百匹の蛇が谷へと急ぎ向かう。

宮崎青谷　画

霊蛇滝
細い路をつる草につかまりながら進むと
しずかに流れる雲が古い松にまとわりついている
一たび水が岩に当たって砕け散れば
たちまちのうちに二頭の白龍になる
広瀬旭荘

大きな一枚岩の上を水が流れています。

　その上流は、水が大きな一枚岩の上を流れているところが、数百武（数百メートル）に及んでおり、水は冷たく澄み切っている。

大きな岩がごろごろしています。

　谷川の中には大きな岩が１丈（３メートル）間隔で向き合い、岩の上には木が生い茂って、まるで城門のやぐらのように見える。

すごい岩です。

　谷川は曲がりくねっており、流水が大きな岩に妨げられて、水が岩を避けたり、岩と戦ってくだけ散ったりしている。石を選び、とび越えながら歩いていけば、衣類を掲げずに渡ることができる。

この岩は、「八畳岩」という名前が付いています。

　ここには三つの大岩があり、そのうちの一つは３０～４０人は座れるくらいの広さ、分厚さがある。

岩の洞穴。

　そこから、数十武（数十メートル）も行くと、右側に岩の洞穴がある。大きさはちょうど人が入れるくらいである。昔、空海が護摩を焚いた場所といわれている。

霊蛇滝（現在の千手滝）。

　さらに先へ進めば、霊蛇滝がある。滝の高さは千手滝の倍ほどあり、水流の激しさは、不動滝に等しい。しかし、不動滝のような奔放な様子はない。

霊蛇滝（現在の千手滝）。美しい姿です。

　滝の落ちてくる岩は、真ん中あたりが盛り上がっているので、そこで滝が二つに分かれ、それがまた交互に錯綜しているさまは、世に珍しいものである。

霊蛇滝（現在の千手滝）。まわりは崖です。

　滝つぼはたいへん広く、深緑でほとんど藍色に見えるほどだ。滝つぼの上には、岩の崖が向き合って聳えており、右側の崖は、数百尺（１００メートル以上）はあろうか。

霊蛇滝（現在の千手滝）の周りには樹木がたくさん。

　崖には、草木が乱れ生い茂り、もみじの木などもある。それらの樹木が滝つぼに向かって枝を垂れている様子は、自分の姿を水面の鏡に映しているかのようだ。

霊蛇滝（千手滝）の上流。
左側に見えるのが霊蛇滝（千手滝）の滝つぼ。
橋は、布引滝へ行くために架けられています。
前方に大きな柱状節理の岩が見えます。
この岩は現在「天狗柱岩」と呼ばれています。

　滝の上にひときわ高く聳える岩があるが、そこには怪物が住むといわれている。われわれが行ったとき、遠くから見ると、竜が滝つぼから頭を出しているのが見え、驚いて逃げ去ろうとしたのだが、近づいてよくみれば、滝つぼに落ちた朽ち木の端っこが、水面に突き出していたのだった。

2009年3月28日公開。