靈蛇瀑
百蛇壑に赴く
青谷老人
靈蛇瀑
細路は垂葛に依り
間雲は古松に纏ふ
一水巖に當りて碎け
忽ち雙白龍と成る
旭莊
其の上、水全石の上に布く者數百武。極めて清冷なり。
巨石澗中に對峙す。相距たること丈許り。樹其の上に植つ。皆蔚蒼たり。隱然として城闕の如し。
澗は屢轉じ、臥石流れを礙ぐ。水或は避け或は鬪ふ。石を擇びて步を移す。距躍し、曲踊して、揭げ涉るを須ひず。
三巨石有り。其の一は尤も廣厚にして、上に三四十人を坐せしむ可し。
數十武にして右に巖洞有り。大いさ人を容る。僧空海の護摩を修せし處と稱ふ。
更に進めば靈蛇瀑を得。長さ千手に倍す。迸激は略ぼ不動に似たり。但し奔放の態無し。
其の巖は、胸腹窿然たり。岐れて二流と爲る。交互に錯綜し、奇狀掬す可き也。
潭は頗る宏濶なり。深碧にして藍の如し。其の上に石崖對立す。右方は特に高きこと數百尺。
而して卉木轇轕し、間楓樹を廁ふ。枝を垂れて潭に俯し、水を鑑る者の如し。
屹石挺然として瀑上に聳ゆる有り。魑魅の踞する所なりと稱す。初め遙に虯蛟の頭角を潭中に出すを見、駭愕して走らんと欲す。漸く近づけば乃ち朽木の潭に墯ち、嶄然として其の端を露すを知る也。
2009年3月28日公開。