『観瀑図誌』の「霊蛇滝」は、現在「千手滝」と呼ばれています。
『観瀑図誌』によりますと、不動滝と布引滝の間にあるのが「霊蛇滝」です。「霊蛇滝」の近くには岩の洞穴があり、滝の姿は、水流が複雑に交差した珍しいものです。この記述から、『観瀑図誌』の「霊蛇滝」は、現在「千手滝」と呼ばれている滝のことであることは、間違いありません。
山全体が一枚岩であり、「全石」と表現されています。
さて、『観瀑図誌』には、不動滝から霊蛇滝(現在の千手滝)へ行くまでに、数百武(数百メートル)にわたって、水が「全石」の上を流れている、と書かれています。「全石」とはどんなものだろうと、われわれは現地視察で実物を見るのを、楽しみにしておりました。
霊蛇滝(現在の千手滝)へ行く途中にある八畳岩。
その「全石」なるものを実際に見たとき、われわれは本当に圧倒されました。なんとそれは、山全体が一つの岩で出来ているということだったのです。一つの岩の塊である山を、川が流れて滝がたくさんでき、また、山の一部が風化して崩れ、その崩れた部分が大岩となって、ごろごろと転がっているのです。そんな信じられない光景をわれわれは目の当たりにしたのです。「造化の美」とは、このようなものを言うのに違いありません。
霊蛇滝(現在の千手滝)の傍らにある岩の洞穴。
岩の洞穴(岩洞)は、現在では内部に木の祠が作られ、注連縄(しめなわ)が張られておりますが、心無いことをするものです。梁洲先生の昔のように、自然そのままにしておくべきだと思います。人が入り込んで危ないというのなら、柵を設けるだけでよいのです。
霊蛇滝(現在の千手滝)。
霊蛇滝(千手滝)の美しさは、形容しがたいものがあります。現在では、滝を正面から眺めることができるように、茶店の前に見物用の床(川床のようなもの)が作られております。夏の間は、夜間のライトアップもあるとのことです。
霊蛇滝(現在の千手滝)の美しい姿。
霊蛇滝の図
上の写真と見比べてください。
観光客の多い今では考えられないことですが、わずか数人で秘境を見にきた梁洲先生たちには、霊蛇滝(千手滝)が、異様な不気味さを持つ滝に思えたのかもしれません。朽ち木が竜のように見えて驚いた、というのですから、恐怖すら感じていたのでしょう。ですから、『観瀑図誌』にある「霊蛇」という名前は、この滝の名として、まことにふさわしいものであったのです。
2009年3月28日公開。
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