行者瀑
瑤瑟初めて奏す
雪城 澤俊卿書
青谷散人寫す
行者瀑
潭光明らかにして鑑る可し
人影游魚を散ず
側らに盤陀たる石有り
面に行者の書を鐫る
旭莊
既に郊を出で、遙に一峰の山隙に聳ゆるを見る。其の容凡山と迥かに異なる。即ち赤目の前山と爲す。
諸村を歷て柏原村に抵る。溪水[氵虢] [氵虢]たり。即ち瀑布の下流と爲す。板橋を度り民家を過ぐれば、水再び見はる。是れ從り流れに傍ひて行く。長坂村を過ぐれば、水石磷磷たり。又一橋を度り、始めて赤目の村に入る。
茆屋八九、高低次無し。前峰澗を隔てて聳ゆ。即ち來路に指す所の者なり。其の巔を瞻んと欲すれば、則ち笠檐背に著く。
寺、延壽院と曰ふに入る。院を出でて左すれば、櫻樹枝を垂るる有り。側に二祠有り。一を觀音と爲し、一を不動と爲す。不動は配するに役小角を以てす。前に石燈龕を置く。刻して云く、「德治二年建つ」、と。又、石浮圖左の林下に在る有り。剝蝕して奇古なり。蓋し亦五百年前の物か。
此を過ぐれば則ち山口なり。茅茷りて徑を夾み、境始めて幽寂たり。蒼崖列立し、樹は多く艾蒳を挂け、毿毿として髮の若し。
行くこと町許にして、澄潭有り。其の上に巨石傾き臥し、水石隙由り瀉ぎ出づ。行者瀑と爲す。注ぎ下ること數尺を越ゑず。其の鳴るや鏘然たり。已に神思をして爽かならしむ。
2009年3月28日公開。