日本漢文の世界

 

赤目四十八滝(観瀑図誌)







行者瀑(ぎやうじやたき)

瑤瑟初奏 日本漢文の世界 kambun.jp
瑤瑟(えうしつ)初(はじ)めて奏(そう)す
雪城(せつじやう) 澤俊卿(さはしゆんけい)書(しよ)

観瀑図誌(行者滝の図) 日本漢文の世界 kambun.jp
青谷(せいこく)散人(さんじん)寫(うつ)す

観瀑図誌(行者滝の詩) 日本漢文の世界 kambun.jp
行者瀑(ぎやうじやたき)
潭光(たんくわう)明(あき)らかにして鑑(かんがみ)る可(べ)し
人影(じんえい)游魚(いうぎよ)を散(さん)ず
側(かたは)らに盤陀(ばんだ)たる石(いし)有(あ)り
面(おもて)に行者(ぎやうじや)の書(しよ)を鐫(ゑ)る
旭莊(きよくさう)

 既(すで)に郊(かう)を出(い)で、遙(はるか)に一峰(いつぱう)の山隙(さんげき)に聳(そび)ゆるを見(み)る。其(そ)の容(よう)凡山(ぼんざん)と迥(はる)かに異(こと)なる。即(すなは)ち赤目(あかめ)の前山(まへやま)と爲(な)す。
 諸村(しよそん)を歷(へ)て柏原村(かしはらむら)に抵(いた)る。溪水(けいすい)[氵虢(くわく)] [氵虢(くわく)]たり。即(すなは)ち瀑布(ばくふ)の下流(かりう)と爲(な)す。板橋(いたばし)を度(わた)り民家(みんか)を過(す)ぐれば、水(みづ)再(ふたた)び見(あら)はる。是(こ)れ從(よ)り流(なが)れに傍(そ)ひて行(ゆ)く。長坂村(ながさかむら)を過(す)ぐれば、水石(すいせき)磷磷(りんりん)たり。又(また)一橋(いつけう)を度(わた)り、始(はじ)めて赤目(あかめ)の村(むら)に入(い)る。
 茆屋(ばうをく)八九(はちく)、高低(かうてい)次(ついで)無(な)し。前峰(ぜんぱう)澗(かん)を隔(へだ)てて聳(そび)ゆ。即(すなは)ち來路(らいろ)に指(ゆびさ)す所(ところ)の者(もの)なり。其(そ)の巔(いただき)を瞻(み)んと欲(ほつ)すれば、則(すなは)ち笠檐(りふえん)背(せ)に著(つ)く。
 寺(てら)、延壽院(えんじゆゐん)と曰(い)ふに入(い)る。院(ゐん)を出(い)でて左(ひだり)すれば、櫻樹(あうじゆ)枝(えだ)を垂(た)るる有(あ)り。側(かたはら)に二祠(にし)有(あ)り。一(ひとつ)を觀音(くわんのん)と爲(な)し、一(ひとつ)を不動(ふどう)と爲(な)す。不動(ふどう)は配(はい)するに役小角(えんのおづぬ)を以(もつ)てす。前(まへ)に石燈龕(いしどうろう)を置(お)く。刻(こく)して云(いは)く、「德治(とくぢ)二年(にねん)建(た)つ」、と。又(また)、石浮圖(いしふと)左(ひだり)の林下(りんか)に在(あ)る有(あ)り。剝蝕(はくしよく)して奇古(きこ)なり。蓋(けだ)し亦(また)五百年前(ごひやくねんまえ)の物(もの)か。
 此(ここ)を過(す)ぐれば則(すなは)ち山口(さんこう)なり。茅(ちがや)茷(しげ)りて徑(こみち)を夾(はさ)み、境(きやう)始(はじ)めて幽寂(いうじやく)たり。蒼崖(さうがい)列立(れつりつ)し、樹(き)は多(おほ)く艾蒳(がいなふ)を挂(か)け、毿毿(さんさん)として髮(かみ)の若(ごと)し。
 行(ゆ)くこと町(ちやう)許(ばかり)にして、澄潭(ちようたん)有(あ)り。其(そ)の上(うへ)に巨石(きよせき)傾(かたむ)き臥(ぐわ)し、水(みづ)石隙(せきげき)由(よ)り瀉(そそ)ぎ出(い)づ。行者瀑(ぎやうじやたき)と爲(な)す。注(そそ)ぎ下(くだ)ること數尺(すうじやく)を越(こ)ゑず。其(そ)の鳴(な)るや鏘然(しやうぜん)たり。已(すで)に神思(しんし)をして爽(さわや)かならしむ。


2009年3月28日公開。

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