日本漢文の世界

 

赤目四十八滝(観瀑図誌)







赤目(あかめ)の瀑(たき)前記(ぜんき)

泉声之山 貫名菘翁書 日本漢文の世界 kambun.jp
泉聲(せんせい)の山(やま) 菘翁(すうをう)題(だい)

  赤目(あかめ)の山(やま)は、我(わ)が名張(なばり)の西南(せいなん)二里(にり)許(ばか)りに在(あ)り。高(たか)さ三十丈(さんじふぢやう)。樹(き)は蓊蔚(をううつ)、石(いし)は怪奇(くわいき)なり。而(しかう)して澗泉(かんせん)懸(かか)り、四十八瀑(しじふはちたき)と爲(な)る。
 其(そ)の最(もつと)も觀(み)る可(べ)き者(もの)は、曰(いは)く行者(ぎやうじや)、曰(いは)く千手(せんじゆ)、曰(いは)く不動(ふどう)、曰(いは)く靈蛇(れいじや)、曰(いは)く曳布(ぬのびき)、曰(いは)く龍(りゆう)が壺(つぼ)、曰(いは)く縋藤(すがりふじ)、曰(いは)く柿窪(かきくぼ)、曰(いは)く荷擔(にない)、曰(いは)く琵琶(びは)、曰(いは)く岩窟(がんくつ)。而(しかう)して不動(ふどう)・曳布(ぬのびき)・荷擔(にない)・琵琶(びは)、最(もつと)も大(だい)なり。合(あは)せて之(これ)を名(な)づけて赤目(あかめ)の瀑(たき)と曰(い)ふ。山(やま)に因(よ)つて名(な)を得(え)たる也(なり)。
 俗(ぞく)に傳(つた)ふ、「役小角(えんのおづぬ)の此(こ)の山(やま)を闢(ひら)く也(や)、不動明王(ふどうみやうわう)、赤目(あかめ)の牛(うし)に騎(き)して現(あらは)る。故(ゆゑ)に是(こ)の名(な)を得(え)たり」、と。其(そ)の千手(せんじゆ)・不動(ふどう)等(とう)の目(もく)は、皆(みな)浮屠氏(ふとし)の命(めい)ずる所(ところ)にして、土人(どじん)慣稱(くわんしよう)する耳(のみ)。四十八(しじふはち)も亦(また)佛願(ぶつぐわん)の數(かず)と爲(な)す。其(そ)の多(おほ)きを言(い)ふ耳(のみ)。毎歳(まいとし)七月(しちぐわつ)、近人(きんじん)來(きた)り觀(み)る。之(これ)を賽瀑(さいばく)と謂(い)ふ。
 擧(きよ)、夙(つと)に泉石(せんせき)の疾(しつ)有(あ)り。而(しかう)して居(きよ)は山(やま)と相(あひ)近(ちか)し。故(ゆゑ)に屢(しばしば)來(きた)り遊(あそ)ぶ。天保(てんぽう)辛卯(しんばう)の秋(あき)、始(はじ)めて文(ぶん)を作(つく)つて之(これ)を記(しる)し、行者(ぎやうじや)に始(はじ)まり龍(りゆう)が壺(つぼ)に終(をは)る。此(これ)を前澗(ぜんかん)と爲(な)す。今茲(ことし)萬延(まんえん)庚申(かうしん)の秋(あき)。源(みなもと)を究(きは)めて記(き)を續(つづ)け、岩窟(がんくつ)に始(はじ)まり縋藤(すがりふじ)に終(をは)る。此(これ)を後澗(ごかん)と爲(な)す。
 予(よ)夙(つと)に此(こ)の山水(さんすい)の奇(き)を愛(あい)し、之(これ)を世(よ)に公(おほやけ)にせんと欲(ほつ)すること久(ひさ)し。乃(すなは)ち各圖(かくづ)及(およ)び題篆(だいてん)を四方(しはう)の諸彦(しよげん)に請(こ)ひ、記(き)を其(そ)の後(あと)に録(ろく)すること左(さ)の如(ごと)し。
 古人(こじん)云(い)ふ、「山水(さんすい)靈(れい)有(あ)らば、當(まさ)に己(おのれ)を千古(せんこ)に知(し)るに驚(おどろ)くべし」、と。余(よ)が文(ぶん)は山水(さんすい)を彰(あらは)すに足(た)らずと雖(いへど)も、山靈(さんれい)或(あるい)は余(よ)を以(もつ)て知己(ちき)と爲(な)さん乎(か)。


2009年3月28日公開。

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