附 梅溪十律
梅溪の勝趣親ら論ずるに好し
今日扁舟始めて源を問ふ
濕霧兩崖春水を渡る
冷雲十里夕陽の村
榻前幾歳か圖畫を按じ
枕上平生夢魂を勞す
記去す山頭老禪の宅
直に香裡從り柴門を得たり
清川幽麓紅塵を阻み
雞犬寥寥たり洞裡の春
僻境の衣巾魏晉に非ず
編民の姓族定めて朱陳ならん
山田の萬石玉を食と為し
籬落の十村芳を是れ隣とす
笑殺す凡桃僊骨を少くを
花を種ゑて學ばず秦を避くるの人を
花中の清絶久しく梅を推す
此の境居然として更に魁を占む
遍地の鎔銀爛として海の如し
滿山玉を種ゑ粲として堆を成す
澄溪影を蘸して參差として見ゆ
曲徑香を吹いて窈窕として來る
東閣・西湖何ぞ道ふに足らん
唐賢容易に鐡心を摧かん
山屐行窮まる層嶺の西
梅花深き處路高低
雲中人は過りて前途を誤り
雪裏鶴は歸りて舊棲を迷ふ
幽谷風香りて自ら導を為し
芳陰苔駁りて亦蹊と成る
清宵更に發す逋仙の秘
疎影分明たり月一溪
月下衣を振ひて碧岑に立つ
皎然一矚千林を盡す
幽巖冷淡にして雲色無し
遙澗潺湲として花音有り
風は帽簷を拂ひて酒從り醒め
參は頭上に横たはりて宵深きを覺ゆ
佳人畢竟能く客を留む
今夜要ず須く樹陰に宿すべし
雪楳相伴ひて茲辰を占む
芳意寒光兩つながら是れ眞なり
自ら暗香有り千樹の曉
更に素彩を添ふ十分の春
豈に圖らんや庾嶺に僊客を梦み
兼ねて剡谿乘興の人と作らんとは
滿目皚然たり清淨の境
山無く水無し纖塵を著す
壑を蹈み巖を攀づること自由ならず
萬梅林下輕舟を蕩す
珠を綴ねて枝は在り風塵の表
䨮を映じて人は披る鶴氅の裘
素絢圖成りて危壁に挂け
玉山影倒れて中流に落つ
篙夫棹を移すは須く除緩なるべし
九曲の風光細求を要す
盡日春を尋ねて奇窮まらんと欲す
溪山境に隨ひて更に同じき無し
巖は危㟁に懸りて參差として出で
水は寒沙を嚙みて屈曲して通ず
輭雲を踏み破りて屐齒薰り
叢雪を穿ち來りて舟篷を掲ぐ
兜羅綿裡に乾坤白し
斜陽を埋却して亦紅を失ふ
春を蹈みて布韈梅が為に忙なり
看ること朝陽自り夕陽に到る
雪宜し月宜し咀嚼に堪へたり
花有り人有り徜徉に任す
新圖は景を寫して筆端活し
奇句は遊を記して囊底香る
一たび去りて他年茲の勝を憶はば
山川杳として白雲郷に在らん
留連兩日仙寰に宿し
僮僕歸るを催して強いて關を出ださしむ
袖に滿つ清香擕へ得て在り
一枝の冰蕋折りて將に還らんとす
重ねて游ぶこと知らず何れの歳にか在る
後夢只應に此の間を尋ぬべし
好し蹇驢を借りて倒騎し去り
雲間領を引きて殘山を望まん
2019年5月2日公開。2020年2月4日一部修正。