小さな舟。
べたべたと湿った霧。
つめたい雪をもたらす雲。
机の前こと。「榻」は、ここでは机の意味だが、細長いベッドや長椅子の意味のこともある。
寝ている人から幽体離脱した魂。
「去」字は持続を示す助字。ずっと覚えている。
山頂。
老いた禅僧。(自称の場合もある。一般的な用語ではないが、禅関連の文献で散見する。)また、「禅老」とすることもある。蘇軾の『蠟梅一首贈趙景貺』詩に「此有蠟梅禪老家」(ここに蝋梅あり、禅老の家)とある。
木の枝で作った粗末な門。
清らかな川。
人里離れた山のふもと。
にぎやかで人が多い場所。転じて俗世間のわずらわしさをいう。
陶淵明の『桃花源記』に「鶏犬相聞」(鶏犬相(あい)聞こゆ)とあるのに基づき、山里の静かな様子を表す。
数が少ないこと。
洞窟の中。陶淵明の『桃花源記』に出てくる桃源郷が洞窟の中にあるという設定であることによる。
人里離れた僻地。片田舎。
衣服と頭巾。
三国の一つである魏と、その後継である晋。『桃花源記』の作者・陶淵明は、晋の時代の人。
戸籍に編入されている平民。
姓氏および家族。
朱および陳の二つの姓ということで、白楽天の「朱陳村」詩に、村には二つの姓しかなく、代々交互に婚姻しているという村が出てくるのを踏まえている。外部と交渉のない僻地の村であることを言っている。
山間にある畑。
収穫が多いことをいう。
宝石のこと。ここで「玉」とは梅のこと。「玉為食」は「以玉為食(玉を以て食と為す)」ということで、梅の収入で暮らしていること。同時に、「玉食」とは贅沢な食事を意味するので、贅沢に暮らしている意を含んでいる。
まがき。いけがき。
これ以上ないくらいに笑うこと。笑いとばすこと。
桃は(梅に比べて)平凡であるとけなしている。
仙人のようなすぐれた気質。
陶淵明の『桃花源記』では、桃源郷の住人たちはかつて秦の横暴を避けて桃源郷の土地にやってきたことになっている。
非常に清らかなこと。
「儼然」と同じで、厳粛な様子。
リーダー。指導者。第一人者。
地上にあまねく存在していること。
溶けた銀。ここでは梅花で白一色になっていることを譬えている。
光り輝く様子。
くっきりと鮮やかな様子。
うずたかく積み上げたもの。
澄んだ谷川。
水中に浸って、影がさかさまに映ること。
長さや高さが不揃いな様子。
曲がりくねった小道。
しなやかで奥ゆかしい様子。
四川省の崇慶県にあった宮殿。「東亭」ともいう。 官府の植えた梅(官梅)があり、杜甫の詩に詠まれている。杜甫『和裴迪登蜀州東亭送客逢早梅相憶見寄』詩:「東閣官梅動詩興、還如何遜在揚州。」(東閣の官梅詩興を動かす、還(ま)た如何ぞ揚州に在るに遜(ゆづ)らんや。)
浙江省杭州市にある湖。北宋の詩人林逋(りんぽ)が隠居した島「孤山」がある。(『記二』を参照。)
唐土(中国)の賢人たち。ここでは、玄宗皇帝のときの宰相であった宋広平ことをいう。
鉄のように堅い心。意思の強さを譬える。「鉄心を摧(くだ)く」とは、そのような堅い心も梅の花は柔らかく変えてしまうということ。唐の皮日休は『桃花賦』に、玄宗皇帝のときの宰相であった宋広平について、「余嘗て宋広平の相と為り、貞姿・勁質、剛態・毅状を慕ひ、其の鉄腸・石心、婉媚の辞を吐くを解せざるを疑ふ。然るに其の文にして『梅花賦』有るを睹(み)るに、清便・富艶,南朝の徐庾体(じょゆたい)を得て、殊に其の人と為りに類せざる也。(私はかつて宋広平が宰相として義理堅く強い意志をもった剛毅な人であることを慕っていた。鉄石のような心を持ち、とても艶美な言葉をあやつることはないだろうと疑っていたのだが、その作品に『梅花賦』があるのを見ると、情趣があり華麗で、南朝の徐庾体(じょゆたい=宮詩の一種)を会得しており、彼の性格には全く似つかわしくないのだ。)」と記している。また、宋の蘇軾はこれを踏まえて『牡丹記叙』に「然るに鹿門子(=皮日休のこと)常に宋広平の人となりを怪しむ。其の鉄心石腸にして『梅花賦』を作れば、すなわち清便・艶発にして南朝の徐庾体(じょゆたい)を得るを意(おも)う。」と記している。
登山用の木ぐつ。下駄。
「層巒」に同じ。重なった山々。
奥深く静かな谷間。
「芳」は梅を指す。梅の木陰。
清らかで静かな夜。
北宋の詩人・林逋(りんぽ)のこと。西湖の孤山で隠棲して、梅を植え鶴を飼って仙人のような生活をしていたので、後世彼は「逋仙」と呼ばれるようになった。「逋仙の秘」とは、林逋の『山園小梅』にあるような月下の梅の美しさをいうのであろう。
月光に照らされてまばらに映る影。
はっきりとしていること。
「一溪月」というところを平仄によって顛倒したもの。谷川に映り込んだ月。
衣類の塵を払って身なりを整えること。
緑色の峰。
(月の光に照らされて)真っ白で明るい様子。
「一望」に同じ。いちどに見渡すこと。
静かな奥山の岩。
「冷澹」とも。色彩が地味で素朴であること。
遠く離れた谷川。
水がさらさらと流れる音の形容。
「帽檐」とも。帽子のつば。
「参宿(しんしゅく)」という星座で、西洋の星座ではオリオン座の三ツ星にあたる。
美人。ここでは、隋の趙師雄が羅浮山で梅の精と出会った故事から、梅のこと。趙師雄は、羅浮山の梅林の酒場で佳人に出会い、酒を酌み交わしていると、緑衣の童子が現れて歌い踊った。師雄はそのまま寝てしまい、起きたら梅の木の下にいた。佳人は梅の精だったという話。
木陰。
雪と梅。
この朝。「茲辰」は韓愈の『春雪間早梅』の詩(梅谿遊記四解説を参照)に「更伴占茲晨」とあるのに基づいており、「辰」は「晨」(朝の意)であろう。
梅の香り。また、春の趣きをいう。この語も韓愈の『春雪間早梅』詩の引用である。
寒々とした冬の光。また月光をいう。この語も韓愈の『春雪間早梅』詩の引用である。
どこからともなく漂う花の香。
白い光。また月の光をいう。
雪と梅と詩のある完璧な春の意。宋の方岳の『雪梅』詩に基づく。
江西省·大庾県にある山の名。大庾嶺山脈は標高1,000メートルほどで、梅の名所として名高く、梅嶺ともいう。古来詩文に多く詠まれている。
仙人のこと。
中国の浙江省東部を流れる曹娥江(そうがこう)の上流。王徽之(おう・きし 王羲之の五男)は、友人の戴逵(たい・き)の家へ行こうとして剡谿を舟でさかのぼり、翌朝到着したが、興がさめて門前から引き返したという有名な故事がある。
一時の感興にふけること。
見わたすかぎり。
真っ白な様子。
清らかでけがれのないこと。
微塵。小さなちり。わずかな汚れを喩える。
小舟。
「風塵表物」(世に傑出した人物)の略。ここでは梅の木を擬人化している。
鶴の羽を織り込んで作った暖かい防寒着。
白地に彩色を施すこと。ここでは一面の雪の中に梅が咲き乱れていることをいう。『論語』八佾編に「素以為絢兮」(素(そ)を以って絢(あや)をなす)とあるのに基づく。
山の険しい崖。
雪で白くなった山。また、美男子を「玉山」といい、「玉山倒る」は美男子が酔いつぶれる喩えである。
川の中央。
船頭。
「緩除」とも。ゆっくりと動作すること。
武夷山の九曲溪のこと。武夷山は風光明媚の地として著名で、ユネスコの世界遺産にも登録されている。ここでは五月川を九曲溪になぞらえている。
景色。風景。
よくよく探し求める。
終日。一日中。
場所。
高くそばだつ断崖。
寒い季節の水辺(沙灘)。
曲がりくねる。
柔らかな雲。ふわふわした雲。
木靴の底にある歯に似た出っ張りのこと。ここでは、「屐」は下駄であり、「屐歯」とは下駄の歯のことであろう。
降り積もった雪。
間を縫って通り抜ける。
とま(葦などを編んで作った覆い)。
綿のこと。ここでは雪を喩えている。
天地。
夕日。夕方、西へ沈みゆく太陽。
地中に埋めること。ここでは太陽が地平線に沈むことを喩えている。
脚にまく布、脚絆(きゃはん)のことで、旅装のこと。
「宜」は「ちょうどよい」「時宜にかなった」という意。
噛み砕くことから、深く情緒を味わう意に用いる。
ぶらぶらと歩くこと。
月ヶ瀬の梅を題材に新たに描いた絵画。
筆先。
すばらしい詩句。月ヶ瀬のすばらしい景色を読み込んだ詩句。
ぶらぶらと歩きまわること。
かばんの底。
はるか彼方に見える様子。
仙人のいる世界。
(楽しみにふけって)一つのところに長い間滞在すること。
仙界。
(男性の)召使い。
関所を通って外の世界に出ていくこと。
清らかな香り。
ここでは、雪に覆われた梅の花。
のちのちに見る夢。
この場所、すなわち月ヶ瀬のこと。
捜すこと。また、訪れること。
足が不自由なロバ。
後ろ向き(backwards)に乗ること。つまり、ロバの頭側に背を向けて乗り、自分はロバの尾側に顔を向ける曲乗りである。唐の玄宗皇帝に仕えた張果という仙人が好んでロバに倒騎したといわれている。ここでは仙境である月ヶ瀬への後ろ髪引かれる思いを「倒騎」と表現したものであろう。
首を伸ばして遠くを眺める。
ここでは、山のさいはて(最果て)の意。本来「殘山剩水」(ざんさんじょうすい)とは戦後の荒廃した国土のこと。
2019年5月2日公開。2020年2月4日一部修正。
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