横淵を過ぎると、またしばらく大岩のごろごろとした谷川沿いを上がって行くことになります。途中に骸骨滝と呼ばれる小滝があります。滝のすぐ横にある岩が人間の頭蓋骨に似ているので、こう呼ばれているのです。しかし、この滝や骸骨に似た岩は梁洲先生の目にはとまらなかったようです。
骸骨滝
そこから少し行くと、斜滝があります。この滝は、岩の上を水流が斜めに滑って行く様子が美しい滝です。しかし、梁洲先生は滝よりも、その右側にある大岩に注目されています。この巨大な大岩ははるか下流からも見ることができます。表面は苔むしています。斜め滝の前には休憩所が設けられているので、ここで休憩しながら、斜滝の優雅な姿と、その奥にそびえる巨大な岩に注目してください。私は、この岩が観瀑図誌にある、僧が座禅しているような形の岩ではないかと思っています。というのは、上の大岩は上に木が生えた巨大な岩で、別の岩の上に乗っかっております。また、流れの中にあるので、観瀑図誌そのままだと思うのです。
斜滝
斜滝の横の大岩
次に、水の滴る折れ曲がった襞のある大岩のことが出てきますが、これは荷担滝のすぐ下流にある崖の岩ではないかと考えています。水の滴る岩といえば、すぐに思い浮かぶのは雨降滝といわれる大岩ですが、これは流れの左側にあり、さきほどの斜滝の大岩よりも下流にあります。この雨降滝は観瀑図誌の中で梁洲先生が「さきほどもこのような岩を見たが、少し小さなものだった。」と述べられている岩のことではないかと思われるのです。だから、梁洲先生が、青蓮峡(香落渓)にも同じような岩はないと言った襞のある大岩は、まさに荷担滝直下にある、この崖の岩ではないかと考えらえるのです。
荷担滝下流の大岩
雨降滝
この崖のすぐ上流に四十八滝中の最大の名瀑たる荷担滝(にないたき)があります。
荷担滝
荷担滝は、その姿が背負子(しょいこ=現代ならリュック)で荷物を担いでいる人を前から見たように、綺麗に二つに分かれていることから名づけられています。二つの滝を背負子の紐に見立てているわけです。
荷担滝への階段
下流から登ってくると、流れの横を階段で少し登って行くようになっています。階段を登りきった時、荷担滝が突然目の前に現れるので、見る人はみな感嘆の声を上げます。高いところから荷担滝の美しい姿を見て、そのあとで滝壺ちかくまで降りて行って、下からじっくり眺め、更に滝の左側の階段を上がって、上からも見ることができます。
荷担滝
この滝は、梁洲先生も書いておられるとおり、上下二層になっており、滝壺も上と下の両方にあります。現在の遊歩道は、滝の左側を通って、上下両方の滝を横から見ることができるようになっています。梁洲先生は、岩を登り、流れを渡り、滝壺に落ち込まないように注意を払いながら非常に苦労されたようです。『観瀑図誌』によれば、梁洲先生はまず滝の下方から、左側の崖(現在の遊歩道が上に通っている崖)を登って滝を左側から観察し、滝を越えて登りきったところで水を渡って左側へ渡ってそのまま奥へ進んだようです。ただ、現在の遊歩道から見る限りでは、梁洲先生が崖のどのあたりを登られたのか、また流れのどのあたりを渡られたのか判然としません。現在は当時より水も少ないため、それほどの危険は想像できませんが、梁洲先生は命に危険を感じながら登られたようです。
荷担滝
上の滝の上流部分
今昔を通じて、この滝は赤目四十八滝第一の名瀑です。記念切手にも登場したので、この滝の姿は誰にでもおなじみのものとなっております。梁洲先生も特に力をこめてこの段を書いておられます。赤目四十八滝へ行くならば、必ずこの滝までは行って見ていただきたいと思います。滝の入り口からの所要時間は、ゆっくり歩いても1時間半程度です。
荷担滝
荷担滝から少し上流へ行くと、川が二つに分かれています。この場所は、観瀑図雑では「落合」と呼ばれています。遊歩道は左側の流れに沿っています。梁洲先生が行かれた道も、左側の流れでした。右側の流れには道はありません。しかし、流れの分かれ目から見ると、右側の流れの向こうのほうに夫婦滝(めおとだき)が見えます。もし、飛び石を超えて流れを渡る勇気があるならば、ぜひ夫婦滝も見に行ってください。夫婦滝は観瀑図誌には載せていない滝ですが、二つの小滝が合流して一本になっており、趣きがある姿です。
落合
落合の上流にある夫婦滝
2017年3月26日公開。
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