弗蘭克林
土屋 鳳洲
米人弗蘭克林の偉業は、天下の夙に稱歎する所なり。而して其の成立は實に高僧命左亜の誡勅に由ると云ふ。
初め弗年十八、意氣軒昂、嘗て命を訪ふ。命一見して其の常器に非ざるを知り、諄諄として訓誨す。而れども弗意を經ざる者の如し。既にして辭去す。命之を送りて、倶に廡下を歩み、將に門を出でんとす。頗る低し。命曰く、「頭昂し、頭昂し。」と。弗談を貪りて省みず。忽ち前頭楣に觸れ、隆然として腫起し、痛み甚し。命乃ち懇諭して曰く、「吾が言を聽かず、今果して何如。凡そ大に爲すこと有らんと欲する者は、必ず先づ人に下らざる可らず。人に下ること能はざる者は、是れ所謂匹夫の剛なり、何ぞ尚ぶに足らん。」と。弗大に感悟する所有り、發憤して遂に大業を就せり。晩年毎に人に語つて曰く、「余の今日有るは、命左亜恩師の賜也。」と。
野史氏曰く、「高僧の弗子を誡むるは、何ぞ彼の圯上老人の子房を教へしと、事相似たる也。蓋し子房と弗子とは、倶に絶代の英才爲り。故に一言の下、警發感奮し、遂に赫赫の業を立てたり。語に云く、『憤せざれば啓せず、悱せざれば發せず。』と。二子焉有あり。」と。
2001年10月8日公開。