日本漢文の世界


弗蘭克林語釈

弗蘭克林(フランクリン)

アメリカ独立時の功労者である政治家ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin、1706-1790)のこと。彼は避雷針を発明した科学者としても有名。この音訳は現在でも中国で使われている。

成立(せいりつ)

人間として完成すること。

高僧(かうそう)

徳の高い僧侶のこと。フランクリンは基督教の新教派を奉じていたので、新教派の僧と思われる。 

命左亜(メサース)

不詳。フランクリン自伝(岩波文庫)にはない。

誡勅(かいちよく)

いましめ。

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弗蘭克林(フランクリン)の略。後出の弗子も同様。

意氣(いき)軒昂(けんかう)

意気のさかんなこと。 

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命左亜(メサース 前出)の略。 

常器(じやうき)

平凡な人材。

諄諄(じゆんじゆん)

ていねいに教えること。

訓誨(くんくわい)

教えること。

廡下(ぶか)

ひさしの下。

隆然(りゆうぜん)

もりあがるさま。

腫起(しようき)

たんこぶができる。

懇諭(こんゆ)

親切に言い聞かせる。

匹夫(ひつぷ)(がう)

つまらぬ男のつよがり。 

感悟(かんご)

きづく。

圯上(いじやう)老人(らうじん)

圯上とは、土橋の上。圯上老人とは、子房(漢の高祖を補佐した張良のこと)に、兵書をさずけたとされている老人で、正体は「黄石」とされている。老人は、張良少年に、大事なことを教えてやるから明朝橋の上に来いと命じたが、張良が行くと老人はすでに来ていて「遅い」と罵った。こうして二度も出直しとなり、三度目には夜半から赴いて、やっと兵書をさずかった。この話は、『史記』の『留公世家』にでている。なお、この話について蘇東坡は『留公論』を書き、圯上老人は「黄石」などの化け物ではなく、世を憂える隠者であり、才能ある張良が謙譲を知らずに命を粗末にするのを惜しみ、謙譲を教えるために張良を三度も来させたのであり、兵書を授けることは特に重要ではなかったと論じている。

警發(けいはつ)感奮(かんぷん)

事をさとって、奮い立つこと。 

赫赫(かくかく)

りっぱな名声のあること。

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『論語』のこと。

(ふん)せざれば云云

論語述而第七にある。憤(情熱がもりあがる)でなければ、啓(ひらき教える)ことをしない。悱(口でうまく表現できなくて苦しむ)でなければ、発(おしえる)ことをしない。それが「啓発」教育の極意である。

二子(にし)(これ)()あり。

張良とフランクリンの二人は、啓発を受けるに足るだけの素質と情熱があった。ゆえにメサース師や圯上老人の教えを受けて大成することができたのだ。 

2001年10月8日公開。