日本漢文の世界


游箕面山遂入京記語釈

箕面(みのお)(さん)

現在の大阪府箕面市にある「明治の森・箕面国定公園」の地域。高さ34メートルの名瀑・箕面滝があり、紅葉でも有名。サルは天然記念物に指定されている。この場所は、江戸時代から中井竹山、服部南郭、田中桐江ら文人墨客も多く来遊した。明治末に現在の阪急電鉄箕面線が開通してからは、観光地となった。

(せつ)

「摂津」のこと。現在の大阪府北西部と兵庫県南東部。

浹旬(せふじゆん)

十日間。

(しよう)

すぐれた景色。

畿甸(きでん)

京都付近の地。ここでは畿内五国(大和・河内・摂津・山城・和泉)を指す。

(くわん)たり

いちばん優れていること。

迂路(うろ)

まわり道

過觀(くわくわん)

立ち寄って見物すること。

子信(ししん)

早崎子信という人物。拙堂の『従大阪至須磨明石記』によると、同郷の津藩の人で、当時は大阪に遊学中であったことが分かる。

二十七日(にじふしちにち)

天保4年(1833年)9月。旧暦9月は、11月初旬にあたる。当時は、今よりも寒かったので、紅葉の季節であった。

下午(かご)

午後。

長柄川(ながらがは)

淀川支流のひとつ、中津川のこと。この川は、明治29年の淀川改修工事で廃川となった。

盤廻(ばんくわい)

ぐるぐる回ること。当時はハイキング道が整備された現在とは違い、山道がくねくねと曲がっていたと考えられる。

淨境(じやうきやう)

神聖で穢れのない場所。ここでは、瀧安寺の境内。

清溪(せいけい)

清らかな谷川の流れ。

奔駛(ほんし)

走るように速く流れてゆく。

紅欄(こうらん)

赤い欄干。現在も瀧安寺は谷川の両側に境内が分かれているため、赤い欄干の橋で対岸に渡れるようにしてある。

()(かん)

この場所。ここ。

(たけ)(けい)となり(まつ)()となる

竹が経(たていと)、松が緯(よこいと)のように混じり合って生えていること。

幽折(いうせつ)

暗い山道をくねくねと曲がってゆくこと。

昏黑(こんこく)

くらいこと。日暮れで暗くなった。

茶店(ちやみせ)

旅館ではなく、参詣者を休憩させる茶店と思われる。現在では茶店は無いが、「梅屋敷」という名前の無料休憩所が設けられており、当時を偲ぶことができる。

投宿(とうしゆく)

泊ること。

終夜(しうや)

夜のあいだずっと。

琅然(らうぜん)

玉がなるような水の音。

明旦(みようたん)

次の朝。

(とう)

石段。

爛然(らんぜん)

あたり一面のもみじが色うつくしい様子。

(しも)()

朝方なので、もみじがうっすらと霜を帯びている。

渥丹(あくたん)

濃い赤色。

綺錯(きさく)

まるで模様のように美しく入り混じっていること。

墜錦(つゐきん)

落ち葉。「錦」は紅葉した落ち葉が色鮮やかであるから例えたもの。

杳然(えうぜん)

はるかに遠い様子。

高雄(たかを)

京都市の高雄山を中心とする地域で、古来紅葉の名勝として知られる。

竦峙(しようぢ)

そびえ立つこと。

廈屋(かをく)

大きな家。

(はん)

この部分は、「唐人戻」という岩の名前を解説した部分。「戻」の字は、漢文では「もとる」と読み「そむく」という意味に使われるが、この岩の名前の「戻」の字義は「反」つまり「かえる(帰)」という意味だと解説している。

(けん)

険しい場所。

鞺鞳(たうたふ)

水の音が響く様子。

二百尺(にひやくしやく)

約30メートル。実際の滝の高さは34メートル。

濆珠(ふんじゆ)

湧き上がる水ぶき。「濆」は「噴」に通ずる。

跳擲(てうてき)

おどるがごとく、なげうつがごとく

潭底(たんてい)

滝壺の底。

轟然(がうぜん)

大音響がひびき渡る様子。

雷動(らいどう)

雷が響き渡るように、とどろきわたること。

一佛堂(いちぶつだう)

一宇の御堂。この御堂は今は存在しない。現在、滝の前は広場になっており、たくさんのベンチが置かれ、ゆったりくつろいで滝を眺めることができるようになっている。広場の後ろには、コンクリートの休憩所がある。この休憩所はできてから約半世紀がたつが、建て替えまたは撤去をめぐり、景観論争が起きている。

凛然(りんぜん)

氷に触れたように引き締まる様子。 

魄悸(はくき)

心に恐れを抱くこと

遲回(ちくわい)

ゆったりまわり道すること。 

委蛇(ゐだ)

まがりくねった様子。

(たい)()

趣向を出すこと。

奔放(ほんぱう)

勢いに乗る様子。

通論(つうろん)

定説。世間で通用する議論。

瀑頂(ばくちやう)

滝の上部の、水が下へ落ちる部分。

(へき)

水。あおく見えるほど、深い池になっている。

(はう)三丈(さんぢやう)

3丈四方。1丈は約303センチメートルなので、10メートル四方。

灌注(くわんちう)

水が流れ込むこと。

十八町(じふはつちやう)

1町は約108メートルなので、約2キロメートル。実際の距離とほぼ合っている。

郡山(こほりやま)

いまの大阪府茨木市宿川原町にあった宿場。

2010年5月1日公開。