岡田 剣西
呉鳳は、台湾の阿里山の役人である。彼は義理人情に厚く、阿里山の原住民(ツオウ族)を心から慈しんでいた。
原住民には、神を祭るときに人の首を斬って供え物にする風習があった。呉鳳はこの悪習を憎み、なんとかやめさせたいと思っていた。当時原住民らが祭り用に貯蔵していた人間の首は40個あった。呉鳳は毎年その中から1個だけを祭りに使用するようにさせ、新たに人の首を斬ることは禁止した。
しかし、40年がたち、貯蔵してあった首が全部なくなってしまった。原住民は、新たに人の首を斬らせてくれと願い出た。呉鳳は誠意をつくして説得に説得を重ね、その間に3年が過ぎた。ところが、原住民はますます強情に首斬りをせがむ。ついに呉鳳は根負けして言った。
「わかった。君たちがそこまで言うのなら、一件だけ首斬りを許可しよう。明日の正午、赤い帽子をかぶり、赤いマントを着た者が、ここを通る。君たちは、その者の首を斬りなさい。」
次の日、赤い帽子をかぶった人物が本当に現れた。原住民たちは、飛び出していってその人を殺した。見ると、何とそれは呉鳳その人であった。彼らは驚きあわて、呉鳳の遺体にとりすがり、声をあげて泣いた。そして、自分たちを慈しんでくれた呉鳳を殺してしまったことを深く後悔した彼らは、呉鳳廟を建て、阿里山の神として祭った。そして、「我が族は今後決して首きりをしない」という誓いを立てたのである。
呉鳳が死んでからすでに200年以上になるが、阿里山の原住民は、他の地域の原住民と違って、人に危害を加えることは全くない。これは、呉鳳の身を捨てての教化によるものである。まことに偉大というべきではないか。
2002年11月10日公開。