中村 敬宇
1771年のこと、ロンドンのある大商人は、妻の贅沢ごのみのせいで、借金まみれになっていた。
ある日、彼はこのままではどうしようもないと悟り、債権者たちを全員家に招いて、正直に話をした。
「債権者のみなさん。借金の返済期限が間近に迫って参りました。しかし、借金の合計は莫大な額にのぼり、このままではとうてい返済できません。私は平生金を湯水のように使って贅沢しておりました。まことにお恥ずかしいかぎりです。そこで、みなさまに折り入ってお願いがございます。返済期限を二年間猶予してください。贅沢な屋敷や車は売り払います。召使にはひまを出します。倹約に努め、商人の本領に立ち返って働きます。そうすれば二年後にはきっと返済できるはずです。」
債権者たちは、その飾り気のなさに感心して、口口に言った。
「二年などと期限を切らなくてもよい。君が必要なだけ待ってあげよう。」
この商人ははたして二年後に債務を完済し、再び富豪になった。
2002年8月31日公開。