中村 敬宇
一千七百七十一年、倫敦の一巨商、其の妻の奢侈を愛するに由りて、多く人に財を借るを致せり。
一日悟る所有り。盡く債主に請ひて家に至らしむ。商乃ち衆に對し陳べて曰く、「諸賢は皆財を我に借與せる者也。我諸賢の券を持して我を責むる期の遠からざるを知れり。然れども借銀を總算するに、其の數甚だ多し。勢必ず償完すること能はざらん。生平を回思すれば、徒に華侈を事とし、費を糜やし財を耗らす。深く羞慙す可し。因りて謹んで請ふ所有り。願くは諸賢我に寛すに二年の期を以てせよ。我大屋美車を賣り、婢僕を遣去し、務めて節儉を行ひ、商人の本色に歸せんと欲す。此の如くんば則ち期に迨んで必ず約に負かじ。」と。債主之を聞き、其の朴實飾らざるに感じ、僉言つて曰く、「奚ぞ必ずしも二年に限るを爲さん。君の便に聽從して可也。」と。
期に届りて商悉く舊債を償還し、其の後復殷富を致せり。
2002年1月14日公開。