日本漢文の世界


曝書(ばくしよ)()

巖谷(いはや) 一六(いちろく)

 牙籤(がせん)()()え、錦帙(きんちつ)(かぜ)(ひるがへ)る。()(たのし)むこと(はなはだ)し。古人(こじん)南面(なんめん)百城(ひやくじやう)()するも、(まこと)()ひざる(なり)
 ()りて(おも)ふ、()童時(どうじ)(いへ)(まづ)しく、(しよ)(あがな)ふこと(あた)はず。借覽(しやくらん)して手寫(しゆしや)し、()(もつ)(ひる)()ぐ。辛苦(しんく)して記誦(きしよう)し、(みづか)成立(せいりつ)()す。
 今也(いまや)(みだり)榮耀(えいえう)(かたじけ)なくし、賜俸(しほう)(あまり)()充箱(じうさう)盈架(えいか)(とみ)()す。(なん)()多幸(たかう)なるや。(しかう)して(みづか)()(げふ)(かへりみ)るに、退(しりぞ)くこと()りて(すす)むこと()し。腹中(ふくちう)(しよ)(ひび)蠹殘(とざん)()き、(さら)(ところ)(もの)は、(ただ)()古聖(こせい)糟粕(さうはく)(のみ)前賢(ぜんけん)唾餘(だよ)(のみ)(ああ)曝書(ばくしよ)()(つく)る。

2008年11月23日公開。