日本漢文の世界


牛盜人語釈

牛盜人(うしぬすびと)

狂言の曲名。この曲は、和泉流でのみ演じられる。(ちなみに「牛盗人」という意味を漢語で表すと、「盗牛賊」となる。)

狂言(きやうげん)

誇大で好き勝手な言葉というのが原義で、「たわごと」という古訓がある。わが国で、この語が滑稽な芸能を指すようになったのは、南北朝時代以後のことである。狂言は、能とセットで演じられるもので、室町時代に入ると、狂言は能とともに「能楽」(明治以前の呼称では「猿楽」)を形成した。「能楽」は、江戸時代に幕府の式楽となり、大蔵流、鷺流、和泉流の三流が確立したが、明治以後の混乱期に鷺流は断絶し、現在は大蔵・和泉の二流となっている。なお、歌舞伎と区別するため「能狂言」と呼称されたこともあるが、今日では単に「狂言」とするのが一般的である。

散樂(さんがく)

散楽とは、もともと雅楽に対するもので、中国の大衆芸能のこと。散楽も奈良時代に雅楽とともにわが国にもたらされ、楽戸(がっこ)での教習が行われていた。その内容には、踊りや劇のほか、奇術・軽業なども含まれていた。平安時代以後、楽戸は廃止されたが、散楽は民間で伝承され、なまって「猿楽」と呼ばれるようになる。これが、後の能と狂言へと発展していった。

(かい)

滑稽なこと。後出の「謔」と合わせて「諧謔(かいぎゃく)」と熟語で使われることが多い。

笑貌(せうばう)

笑うようす。

(ぎやく)

おどけて笑うこと。前出の「諧」と合わせて「諧謔」と熟語で使われることが多い。

絕倒(ぜつたう)

倒れるほど大笑いすること。笑い転げる。

間奏(かんそう)

幕間に演じるという意。明治時代には能に比べ狂言は軽視されていたので、このように言った。

()まざらしむ

飽きさせない。

勸戒(くわんかい)

善を勧め、悪を戒めること。

(ぐう)する

寄託すること。

癸未(きみ)

みずのとひつじ。明治16年(1883年)。

能樂堂(のうがくだう)

明治14年に芝公園内に開設された「芝能楽堂」。

法吏(はふり)

ここでは「奉行(ぶぎょう)」。ただし、「法吏」のもともとの意味は「獄吏(監獄を管理する役人)」。

美鬚(びしゆ)長髯(ちやうぜん)

「鬚」はあごや口のまわりのヒゲ。「髯」は頬ヒゲのことです。

峩帽(がばう)稜衣(りようい)

ともに造語で、「峩帽」とは背の高い帽子、つまり「烏帽子」。「稜衣」とは角張った着物、つまり「上下(かみしも)」。

胥徒(しよと)

「胥」とは小役人のこと。もともとは小役人の中でも、泥棒を捕まえる役目を持つ者を「胥」といった。

官牛(くわんぎう)

この狂言では「法皇の牛」。

賞格(しやうかく)

懸賞に定める褒美(報酬)の規定。

夥伴(くわはん)

仲間。つれ。「火伴」と同じ。ここでは、共犯者として罰せられるべき仲間のこと。

拜唯(はいゐ)

「唯(wĕi)」は目上の人に「ハイ」と丁寧に返事をすること。

(しよう)

証拠。

(もち)ひず

不要である。

對質(たいしつ)

訴訟事件において、被告人・証人などを対面させて尋問を行うこと。

夷然(いぜん)

平然としていること。

忌辰(きしん)

命日(忌日)。とくに親の命日を「忌辰」という。

貧窶(ひんく)

貧乏。

佛事(ぶつじ)

法要。

犯狀(はんじやう)

犯罪の状況。

詭秘(きひ)

不可解で計り知れないこと。

()(いか)らす

怒って睨みつけること。

切齒(せつし)

歯ぎしりして悔しがるさま。

(こゑ)(はげま)

語気するどく言うこと。

(きく)

養育する。

(ゆづ)

譲って与えること。

()

(幼児など自分で食べられない者のために)口に食べ物を入れてやること。

餘年(よねん)

晩年のこと。

處決(しよけつ)

法によって死刑を執行すること。

食言(しよくげん)

約束をたがえること。

(ちう)

罪人を処刑すること。

歔欷(きよき)

むせびなくこと。

(よう)

抱擁する。抱く。

欣欣(きんきん)

喜ぶようす。

()

芝居のこと。

三宅庄市(みやけしやういち)

三宅庄市(1824-1885)は、和泉流の弟子家である三宅藤九郎家の第七世で、旧幕時代は加賀藩前田家のお抱えとして京都に在住したが、維新後は東京へ出て活躍した。相手役の野村与作(1826-1901)とともに東京での和泉流の勢力伸張に貢献し、明治の狂言界を支えた第一人者。

巧手(かうしゆ)

名人。

情狀(じやうじやう)

物事の実際の状況。

()()

「無従(wú cóng)」とは、手立てがないこと。ここでは、説明のしようがないこと。

2003年8月10日公開。