帆足 愚亭
あるところに、じいさん・ばあさんが住んでおった。じいさんは芝刈りに行って狸を捕まえ、生きたまま縛って家のはりにつるしておいた。そして、出かけるときにばあさんに言った。「あの狸を殺して狸汁を作ってな、飯を炊いてまっていろや。」そう言うと、じいさんは出ていった。
ばあさんは穀物を杵でついていたが、えらい仕事でなかなかはかどらない。そこへ狸が、はりの上から声をかけた。
「ばあさん、ばあさん。おれの縄を解いとくれ。代わりに杵をついてやるから。」
ばあさんも、それもそうだと思ったので、狸の縄をといてやった。すると狸は、いきなりばあさんをうすの中へ押し倒し、杵で殴り殺してしまった。そして、ばあさんの太ももの肉を裂きとってスープをつくり、ばあさんの死体はかまどの後ろに隠した。そして、自分はばあさんに化けて、飯を炊いてじいさんが帰ってくるのを待っておった。
さて、じいさんは帰ってきて狸汁を食ってうまいといった。狸のばあさんが、「かまどのうしろをみてごらん・・」と鼻歌のように言ったので、じいさんがかまどの後ろを見てみると、何とばあさんの死体があるではないか。じいさんは怒って狸を撃ち据えた。狸は深手を負って逃げ出した。じいさんは追いかけたが、ついにとりにがしてしまった。
じいさんは狸にしかえしをしなければ気がすまんと思ったが、どうしてよいものかまったく分からない。そこで、前の山に住んでいるうさぎどんに相談した。うさぎどんは言った。
「じいさん。おれが仇をとってやるよ。」
狸は深手を負って寝込んでいた。そこへうさぎどんが医者にばけて訪ねてきた。薬だといって、とうがらしを傷に塗りつけたものだから、傷は余計にひどくなった。うさぎどんは言った。
「あんたの病気はひどすぎるなあ。外の風にあたらなければ治らんよ。」
うさぎどんは、川のほとりに二艘の舟を用意しておいたのだが、自分は先に木舟のほうに乗って、櫂を漕いで沖へ出ながら言った。「木舟は浮かぶよ、すういすい。」狸も、自分用に用意してあった土舟に乗ると、櫂を漕いで「土舟は浮かぶよ、すういすい」と真似をしたが、まだ岸から離れないうちに、土舟は沈んで、狸は溺れ死んでしまったとさ。
2003年1月19日公開。