日本漢文の世界


(おきな)(おうな)(こと)(しる)

帆足(ほあし) 愚亭(ぐてい)

 (おきな)(おうな)同居(どうきよ)する(もの)()り。(おきな)()(せう)して(たぬき)()()きながら(ばく)して(これ)梁上(りやうじやう)()く。(まさ)()()かんとし、(おうな)()へらく、「(たぬき)(ころ)して(あつもの)(つく)り、(ぞく)()きて(もつ)(われ)()て。」と。(すで)にして()けり。

 (おうな)(ぞく)()くこと(くる)し。(たぬき)梁上(りやうじやう)()(おうな)()つて(いは)く、「(おうな)(なん)(しばら)()(いましめ)()かざる、(われ)(おうな)(かは)りて()かん。」と。(おうな)(もつ)(しか)りと()し、()(いましめ)()きたり。(たぬき)(にはか)(おうな)臼中(きうちう)()し、(きね)()げて(これ)()(ころ)す。()(また)()きて(あつもの)(つく)り、(しかばね)(かまど)(うしろ)()きて、(みづか)(おうな)()りて(ぞく)()きて(もつ)(おきな)()つ。

 (おきな)(いた)り、(あつもの)(くら)ひて(これ)(うま)しとす。(たぬき)(とき)微誦(びしよう)すらく、「(なん)(かまど)(うしろ)()ざる。」と。(おきな)(これ)()れば、(おうな)(しかばね)()り。(いか)りて(これ)()つ。(たぬき)(きず)つき()(はし)れり。(これ)()へども(およ)(あた)はず。

 (おきな)(たぬき)(むく)いんと(ほつ)すれども、(けい)(いづ)(ところ)()く、前山(ぜんざん)兔公(とこう)(はか)る。兔公(とこう)(いは)く、「吾子(ごし)(ため)(これ)(むく)いん。」と。

 (たぬき)(きず)()みて()す。兔公(とこう)(すなは)()()りて(もつ)(えつ)し、蕃椒(ばんせう)()きて(きず)()く。(きず)(おほい)(いた)む。兔公(とこう)(いは)く、「()(やまひ)(はなはだ)し。(なん)出遊(しゆついう)して(もつ)(これ)()かざる。」と。

 (すなは)(あらかじ)二舟(にしう)江上(かうじやう)(そな)へ、(みづか)()木舟(きぶね)()り、(えい)()して(いは)く、「泛泛(はんはん)たる(かな)木舟(きぶね)()。」と。(たぬき)をして土舟(つちぶね)次乘(じじよう)せしむ。(えい)()して(いは)く、「泛泛(はんはん)たる(かな)土舟(つちぶね)()。」と。(いま)(きし)(はな)れざるに、沈溺(ちんでき)して()せり。

2003年1月19日公開。