日本漢文の世界

 

中江藤樹の講堂跡・藤樹書院訪問



38.参考文献

心画孝経
『中江藤樹自筆 心画孝経』藤樹書院発行

全孝図
全孝図 『中江藤樹自筆 心画孝経』より

 藤樹の著作や関連書籍で参考になるものをいくつかご紹介します。

著作集

(1)藤樹先生全集 全5冊
 原版は昭和3-4年(1928-1929年)藤樹書院発行。
 復刻版として、昭和15年(1940年)の岩波書店版、昭和51年(1976年)の弘文堂書店版があります。第1冊から第4冊までが藤樹の文集、第5冊は伝記や研究になっています。藤樹を知るための基本文献です。
 ただ、例えば『孝経啓蒙』の原本は冒頭に「全孝図」という円形の曼荼羅のような図があり、「全孝心法」「誦経威儀」という中国の文人が書いた2つの文章が置かれているのですが、『藤樹先生全集』では藤樹が著わした本文を先に収録し、末尾に「誦経威儀」のみが採録されています。全集の収録方針として藤樹の著作を優先することは正しいと思いますが、書物自体の全体像が分かりにくくなるのは残念です。
 なお、この全集は有り難いことに国会図書館デジタルコレクションで閲覧できます。
 
(2)中江藤樹文集(有朋堂文庫)
 大正3年(1914年)有朋堂
 コンパクトな本ですが、主著である『翁問答』『鑑草』、漢文著作を集めた『藤樹先生遺稿』などが収められています。『翁問答』の章立ては、底本になった版本が違うためか、『藤樹先生全集』や岩波文庫とは異なります。この本は『藤樹先生全集』の15年前に出版されたものです。
 この本は国会図書館デジタルコレクションでも閲覧できます。
 有朋堂文庫は大正の初め頃に刊行された古典全集で全121巻。本の大きさは今日の新書版ほどですが、ハードカバーで天金加工された堅牢な作りであり、刊行から百年以上たっていますが、充分使用に耐えます。各地の図書館でもまだ現役で、私の地元の京都市図書館にも所蔵され、いまも貸し出されています。
 同文庫は古典本文の上部に簡単な注釈があるだけで、余分な解説はありません。そのため、先入見なしで古典に触れることができるのも良いところです。ルビも多く振られており、正確な読みを助けてくれます。
 また、有朋堂は同じ体裁で漢文叢書(全40巻)も出していました。こちらも非常に有用です。


(3)日本思想大系(29)中江藤樹
 昭和49年(1974年)岩波書店
 ISBN‏:‎ 978-4000700290
 藤樹の漢文著作に光をあて、若き藤樹が同時代の儒学者たちの堕落に憤慨して作った有名な漢文作品『安昌弑玄同論』『林氏剃髪受位弁』および漢文著作として最も重要な『孝経啓蒙』に訓読・注釈を付けて誰でも読めるようにしたことは貴重です。このほか和文の主著である『翁問答』と、岡田氏本の『藤樹先生年譜』を収録しています。
 
(4)日本の名著 (11)中江藤樹・熊沢蕃山(中公バックス)
 昭和58年(1983年)中央公論新社
 ISBN‏:‎978-4124004014
 中江藤樹の『翁問答』、熊沢蕃山の『集義和書(抄)』『集義外書(抄)』の現代語訳を収録しています。訳文も分かりやすいです。原文を読むことにこだわらないのであれば、これを最初に読めばよいと思います。
 
(5)翁問答 (岩波文庫)
 昭和11年(1936年)
 ISBN‏:‎978-4003303610
 上段に問番号と、問の内容の簡単な要約があり、下段に簡単な注釈を付けています。総ルビではありませんが、それに近いくらいルビが振られていて、読みやすい編集です。
 
(6)鑑草 (岩波文庫)
 昭和14年(1939年)
 ISBN‏:‎978-4003303627
 (4)の翁問答と同様の編集で読みやすく、絵入り本(数多い版本の一つ)の57枚の挿絵を掲載しているのも良いところです。ちなみに(1)の『藤樹先生全集』(『鑑草』は第3冊に所収)等には挿絵の掲載はありません。


中江藤樹記念館で頒布されている本

(1)藤樹先生(高島氏教育委員会)
 昭和46年(1971年)初版
 小学校の副読本として編纂されたもので、学習する学年にあわせて、文字の大きさや使用する漢字の難易度が考慮されています。
 内容は、藤樹の伝記(3~5学年)、学問の内容(6学年)などです。子供にもよく分かるように書かれていますが、大人が読んでも読みごたえがあります。
 
(2)中江藤樹入門(近江聖人中江藤樹記念館)
 平成14年(2002年)初版
 エピソード集という形式で、中江藤樹の一生や思想が把握できるように巧みに編集されています。藤樹がどのような人物であるかが理解できます。 


良知館で頒布されている本

(1)中江藤樹自筆 心画孝経(藤樹書院)
 平成14年(2002年)初版
 「12.中江藤樹記念館( 7) 致良知・孝経写本」でも紹介しましたが、。伊藤博文が藤樹書院に寄贈したとされる藤樹自筆の孝経の影印本です。藤樹の特徴ある筆跡を見ることができる貴重な資料です。巻末には「仮名書き孝経」を附載しています。
 
(2)藤樹先生国訳 かながき孝経(藤樹書院)
 昭和17年(1942年)初版
 藤樹が『孝経』を読み下したものです。藤樹の訓読法がよくわかる貴重な資料です。この本では読みやすいように、原本では仮名のところをルビ付き漢字に改めて読みやすくしてあります。
 
(3)藤樹先生年譜(藤樹書院)
 昭和16年(1941年)初版
 中江藤樹の生涯を知るための基礎資料である、岡田氏本の『藤樹先生年譜』を、原本の漢字カタカナ混じり文から漢字ひらがな混じり文に直したり、送り仮名を増やしたりして、読みやすくした小冊子です。


評伝

(1)代表的日本人 内村鑑三著 鈴木範久訳(岩波文庫)
 平成7年(1995年)新版
 ISBN:‏:978-4003311936
 内村鑑三が英文で書いた5人の代表的日本人の評伝で、中江藤樹は代表的教育者として紹介されています。正確性には欠ける内容ですが、有名な書物で影響力もあったものなので、一読の価値はあります。
 
(2)中江藤樹(シリーズ陽明学20)古川治著(明徳出版社)
 平成2年(1990年)
 ISBN:‏978-4896199208
 コンパクトな本ですが、前半が藤樹の伝記、後半が主要著作の部分訳になっており、藤樹の思想の全体像を把握しやすいように工夫されています。
 藤樹キリシタン説にも詳しく触れられています。


その他の伝記資料

(1)東西遊記1 橘南谿著(平凡社東洋文庫)
 昭和49年(1974年)
 ISBN:978-4256182291
 橘南谿(たちばな・なんけい、1753-1805)は、江戸時代後期の医家、随筆家。本書は南谿が33歳の天明2年(1782年)から天明8年(1788年)にいたる医学修行の旅路での見聞を一書にまとめた旅行記であり、江戸後期から明治期にいたるロングセラーとなったものです。
 本書の巻之四に「藤樹先生」という項目があり、中江藤樹について紹介しています。これは天明5年(1785年)頃に自ら藤樹書院を訪問した時の様子や、その前後に見聞したことが詳しく書かれており、貴重な記録です。
 
(2)近世畸人伝 伴蒿蹊著(岩波文庫)
 昭和15年(1940年)
 ISBN:978-4003021712
 伴蒿蹊(ばん・こうけい、1733-1806)は、京都の文筆家。『近世畸人伝』はその代表作で、畸人(奇人)とは変わり者ということではなく、世のすぐれた人のことですが、必ずしも有名人が採られているわけではありません。
 本書の巻之一の冒頭に中江藤樹が取り上げられています。ちなみに二番目に取り上げられているのは貝原益軒です。記事自体は『藤樹先生年譜』を要約したような内容ですが、冒頭に藤樹の記事が掲載されていることは瞠目に値(あたい)します。


小説

(1)小説中江藤樹(上)(下) 童門冬二著(学陽書房)
 上下巻とも平成11年(1999年)
 ISBN:上巻 978-4313851313 下巻978-4313851320
 中江藤樹の生涯を小説化したものです。本書を読んだことがきっかけとなって、藤樹に関心をもった方も多いのではないでしょうか。本書は『藤樹先生年譜』や藤樹の著書を丹念に読み込んで書かれていますが、史実とは異なるフィクションがたくさん含まれています。あくまで「小説」として楽しむべきものです。
 
(2)近江聖人 村井弦斎著
 筑摩書房の「明治文学全集95」所収
 ISBN:978-4480103956
 「4.道の駅 藤樹の里あどがわ(2)」でも紹介した、明治のベストセラー作家による少年文学。内容は完全なフィクションです。少年の藤樹が母に薬を届けるために困難をおかして四国の大洲から近江の小川村まで単身で帰ってくる「皹(あかぎれ)妙薬の話」がメインストーリーになっています。アミーチスの『クオーレ』の中にある「母をたずねて三千里」の話を彷彿とさせるものです。



2024年12月7日公開。

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