記念館展示 致良知
ほかにも、明朝体風の楷書で書かれた書があります。
中でも「致良知」の書は有名です。「日本陽明学の祖」としての藤樹のシンボルともいうべき書です。
「良知」は、私心・私欲のない心であり、修養をつめば良知を得て自在を得ることができるというのが、陽明学の「致良知」という教えです。
「致良知」を藤樹は「良知にいたる」と読んでいます。通常の訓読では「良知をいたす」と読むところですが、『仮名書き孝経』などを見れば、藤樹は「致」の字を習慣的に「いたる」と訓読していたことが分かります。訓読の習慣によるものではありますが、「致」を「いたる」と訓読することにより、気張って「良知」を得ようとするのではなく、学んでいく中に自然と「良知」を会得するという感じが出てきます。
記念館展示 孝経写本
藤樹書院発行『心画孝経』より
『孝経(こうきょう)』の写本も展示されています。これも明朝体風の楷書で書かれています。この写本については、『心画孝経』と題した影印本を良知館で購入できますので、ぜひお求めください。
『孝経』のテキストについては古来いろいろと議論があります(後述→孝経啓蒙)が、この写本のテキストは藤樹が著書『孝経啓蒙』で定めたテキストと同一のものです。
藤樹は『孝経』の訓読文をかなで記した『仮名書き孝経』も作成しており、これも併せて展示されています。
寛永17年(1640年)33歳の頃から、藤樹は毎朝『孝経』をお経のように読誦していました。毎朝の孝経読誦はおそらくは訓読で行われていました。『仮名書き孝経』は藤樹が『孝経』にほどこした訓読を今に伝えたものとして貴重です。それは同時代の林羅山が考案した道春点とは異なる、やや古風な読み方です。(原本は仮名だけで書かれていますが、それでは読みにくいので、良知館で購入できる活字版では漢字仮名まじり文に直してあります。)
弟子の熊沢蕃山は、師の中江藤樹が孝経読誦など宗教祭祀めいたことをするのを嫌い、こうした行為は「異端の流れ」に類するものなので自分はやらないと書いています(『集義和書』181:『蕃山全集』第一冊248ページ)。
記念館展示 「祭祀」に使われたとみられる掛け軸
2024年12月7日公開。