漢文訓読は、上述のように漢文の優れた直訳法ですが、問題点がないわけではありません。問題点の指摘は、中国語での音読を主張していた人人から出されたものが、やはり説得力をもっております。
ここでは、荻生徂徠(おぎゅう・そらい)の弟子・太宰春台(だざい・しゅんだい、1680-1747)の著書『倭読要領(わとく・ようりょう)』を見てみることにします。この『倭読要領』は、影印本が勉誠社文庫に入っているので、容易に見ることができます。
春台先生は、その師・荻生徂徠と同じく、漢文は唐音(当時の南京音)で読むのが正統だと主張していました。それにも拘わらず、『倭読要領』のような訓読入門書を書いています。春台先生は、中国語の音読だけでは、日本人は漢文の意味を理解できないから、便宜的に訓読も必要だと考えていたのです(勉誠社文庫版199ページ)。しかし、やるとなったら徹底してやるのが春台先生らしいところで、『倭読要領』は、それまで行われていた恣意的な訓読の誤りを正し、文法的に漢文を訓読しよういう本格的な取り組みとなり、後世の訓読法にも大きな影響を与えることになりました。
春台先生が『倭読要領』で指摘する、漢文訓読の問題点とは、次の5つです。(勉誠社文庫版、198ページ)
(a)倭音にて誦すれば字音混同す
(b)倭訓にて誦すれば字義混同す
(c)顛倒(てんとう)の読みにて句法・字法皆失す
(d)助語辞皆遺漏す
(e)句読明らかならず
私は、これに次の二つを追加しておきます。
(f)訓読に用いる和語が古語であるために、文意を誤解してしまうこと。
(g)漢文訓読法は、中国語の口語文(白話文)には適用できないこと。
次項以下にそれぞれの問題点を検討してみることにします。
2005年3月27日公開。