日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第四章 漢文訓読について




(13)「訓点」について

「訓点」とは訓読のときに読む順序を示す符号です。

 現在行われている「訓点」には、レ点、一二点、甲乙点、などがあります。これらは「訓点」という名前で呼ばれてはいますが、実際には「点」ではなく「文字」もしくは「記号」です。「点」という呼称は、昔の「ヲコト点」(前項参照)の名残です。

論語の訓点 日本漢文の世界

 上図は訓点の実例です。現在の訓点は、明治時代に文部省が定めた方式に従っています。(明治45年3月29日官報掲載の『漢文に関する文部省調査報告』)

 訓点のそれぞれについて、一応説明しておきます。

 「レ点」は、一字だけ返るときに付ける訓点です。※

※「レ点」は、上の字の左下に付けられているように見えますが、厳密にいうと下の字の左肩に付けるものです。原田種成著『私の漢文講義』(大修館書店)41ページに「レ点は下の字に属して左肩につけ、その他の一二点などは字の左下につける。」とあります。ですから、(文部省式では)改行の場合は、行頭にレ点をつけるのが正しい付け方だということになります。とはいうものの、実際には江戸時代後期の版本(青山拙斎『皇朝史略』など)や明治時代の版本(川田甕江『文海指針』など)にも、「レ点」が行末に付けてあるものがあり、「レ点」を行末に付けるのが一概に間違いであるとはいえません。

 「一二点」は、二字以上返るときに付ける訓点です。初めに読む字の左下に「一」、次に読む字の左下に「二」を付けます。「三」、「四」と続くこともあります。

 「上下点」は、レ点、一二点で返読した部分をさらに飛び越えて読むときに使います。「上」「下」(三つの場合は「上」「中」「下」)の順に返る字の左下に打ちます。

 「甲乙点」は、レ点、一二点、上下点でも更に足りない場合に用いるものです。「甲」、「乙」、「丙」、「丁」・・・と返る字の左下に打ちます。

 これらでも足りないときには「天地人点」(すなわち「天」「地」「人」)というのがありますが、そこまで入り組んだ訓読は、あまり望ましくありません。

 また、「送り仮名(添え仮名)」といって、漢字の右下に小さくカナを付けることがあります。これは、図にもあるようにカタカナで小さく書きます。これには特殊な字形があり、戦前までは「コト」は「┐」、「トキ」は「▕キ」、「トモ(ドモ)」は「▕モ」、「シテ」は「〆」のような形に書いていました。これを「合字(ごうじ)」といいます。今の教科書では、このような特殊な表記はしておりません。

論語の訓点2 日本漢文の世界

 上図の第三行に、合字「┐(コト)」が出ています。

土屋鳳洲『近世大戦紀略』 日本漢文の世界

 これは、土屋鳳洲『近世大戦紀略』(明治39年刊)の一部です。4行目の最後に「シ玉フ」との送り仮名が見えます。これは天皇家のみに使う敬語です。また、6行目の6字目「然」の送り仮名に合字「▕モ」が含まれます。また、6行目の下から3字目「簡」の送り仮名に、合字「〆」が含まれます。

 字の右側に「○」や「、」が打ってあるのは、「圏点」といい、批評者(作者とは別人)が、すばらしいと思ったところに朱で点を打ったものを、そのまま活字に移したものです。現代にたとえれば、生徒の作文に先生が赤線を引いたのを、そのまま印刷するようなものです。※

※本文の上覧に「依云」「南云」のように書き込まれているのが批評で、このような上欄に書かれた批評を「眉批」もしくは「頭評」と言っています。「圏点」は「眉批」を書いた批評者が付けたものです。ちなみに「依」とは依田学海、「南」とは南摩羽峯です。漢文は出来上がると師友に回覧して批評を書いてもらうのが、しきたりでした。

 このように、明治ころの漢文書籍は、にぎやかな紙面になっておりました。

 当サイトでは、原文を「レ点」などの訓点や送り仮名(添え仮名)を付けない形で示しています。当初は訓点の表示を検討したのですが、横書きのため付けにくいことや、ユニコードの訓点用文字では不足であるなどの理由で、断念しました。訓点を表示しない代わりに、当サイトでは、原文と併せて訓読文を公開しています。



2005年3月27日公開。2006年10月1日一部追加。

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