「所以」(ゆえん)は、「以(ゆえ=理由)とする所」で、「ゆえん」と訓読し、原因(理由)、方法、手段、目的等の意味を表します。これを仮に「所以短語」と名づけます。「所謂」よりも二字の結びつきはずっと強く、慣用的用法というよりも、むしろ「所以」で一つの詞であると考えたほうがよいくらいです。
【例句1】
此其所以為子房歟。(蘇軾『留公論』)
(訓読)此れ其の子房為る所以なる歟。
(現代語訳)これこそ(容貌が婦女子のように優しいこと)が、張良の張良たるゆえん(理由)ではないのか。
| 主語(主部) | 謂語(述部)=主謂短語(所以短語) | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 主詞 | 謂詞=所字短語 | 賓語=述賓短語 | <助詞> | ||
| 謂詞 | 賓語 | ||||
| 此 | 其 | 所以 | 為 | 子房 | <歟> |
所以短語は、通常以下の例句のように、「之字短語」として使用されることが多いです。
【例句2】
然鹿之所以美、未有絲毫加於煮食時也。(蘇軾『志林』)
(訓読)然るに鹿の美なる所以は、未だ絲毫も煮食の時に加うる有らざる也。
(現代語訳)しかし、鹿肉が美味である理由は、(料理法が発達した今日でも)、(むかし野人が鹿肉を)煮て食べていた時代と比べて、少しも増えているわけではない。
| 主語(主部)=之字短語(所以短語) | ||||
|---|---|---|---|---|
| <連詞> | 主詞 | 之字 | 賓語=述賓短語 | |
| 謂詞=所字短語 | 賓語 | |||
| <然> | 鹿 | 之 | 所以 | 美 |
| 謂語(述部)=主謂短語 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| [状語] | 謂詞 | 賓語=主謂短語 | <助詞> | ||
| 主詞 | 謂詞 | 賓語 | |||
| [未] | 有 | 絲毫 | 加 | 於煮食時 | <也>。 |
なお、「所以」のかわりに「所為」と書かれる場合があります。「所為」も「所以」と同じく理由を表していますから、「ゆえん」と訓読します。次は「所為」の例です。
【例句3】
此淩虚之所為築也。(蘇軾『淩虚台記』)
(訓読1)此れ淩虚の為に築く所也。
(訓読2)此れ淩虚の築く所為也。
(現代語訳)これが、淩虚台を建築する理由である。
| 主語(主部) | 謂語(述部)=主謂短語(所以短語・之字短語) | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 主詞 | 之字 | 賓語=述賓短語 | <助詞> | ||
| 謂詞=所字短語 | 賓語 | ||||
| 此 | 淩虚 | 之 | 所為 | 築 | <也>。 |
2007年11月11日公開。