日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第4節 特殊な短語




(11)所字短語7 所以(ゆえん)

 「所以」(ゆえん)は、「以(ゆえ=理由)とする所」で、「ゆえん」と訓読し、原因(理由)、方法、手段、目的等の意味を表します。これを仮に「所以短語」と名づけます。「所謂」よりも二字の結びつきはずっと強く、慣用的用法というよりも、むしろ「所以」で一つの詞であると考えたほうがよいくらいです。

【例句1】

此其所以為子房歟。(蘇軾『留公論』)

(訓読)()()子房(しぼう)()所以(ゆえん)なる()

(現代語訳)これこそ(容貌が婦女子のように優しいこと)が、張良の張良たるゆえん(理由)ではないのか。

主語(主部)謂語(述部)=主謂短語(所以短語)
主詞謂詞=所字短語賓語=述賓短語<助詞>
謂詞賓語
所以子房 <歟>

所以短語は、通常以下の例句のように、「之字短語」として使用されることが多いです。

【例句2】

然鹿之所以美、未有絲毫加於煮食時也。(蘇軾『志林』)

(訓読)(しか)るに鹿(しか)()なる所以(ゆえん)は、(いま)絲毫(しごう)煮食(しやしよく)(とき)(くお)うる()らざる(なり)

(現代語訳)しかし、鹿肉が美味である理由は、(料理法が発達した今日でも)、(むかし野人が鹿肉を)煮て食べていた時代と比べて、少しも増えているわけではない。

主語(主部)=之字短語(所以短語)
<連詞>主詞之字賓語=述賓短語
謂詞=所字短語賓語
<然>鹿所以

謂語(述部)=主謂短語
[状語]謂詞賓語=主謂短語<助詞>
主詞謂詞賓語
[未]絲毫於煮食時<也>。

 なお、「所以」のかわりに「所為」と書かれる場合があります。「所為」も「所以」と同じく理由を表していますから、「ゆえん」と訓読します。次は「所為」の例です。

【例句3】

此淩虚之所為築也。(蘇軾『淩虚台記』)

(訓読1)()淩虚(りようきよ)(ため)(きず)(ところ)(なり)

(訓読2)()淩虚(りようきよ)(きず)所為(ゆえん)(なり)

(現代語訳)これが、淩虚台を建築する理由である。

主語(主部)謂語(述部)=主謂短語(所以短語・之字短語)
主詞之字賓語=述賓短語<助詞>
謂詞=所字短語賓語
淩虚所為 <也>。



2007年11月11日公開。

ホーム > いざない > 漢文と日本文化 > 所字短語7 所以(ゆえん)

ホーム > いざない > 漢文と日本文化 > 所字短語7 所以(ゆえん)