主謂短語の所字短語は、被動詞「為」の賓語となる場合には、被動句(受身の文)を形成します。被動詞「為」は動詞の一種です。
【例句1】
或為鳥鵲所啄。(蘇軾『志林』)
(訓読)或は鳥鵲の啄ばむ所と為る。
(現代語訳)あるものは、鳥についばまれてしまった。
所→啄
ついばむ対象物
鳥鵲→所→啄
鳥のついばむ対象物
為 鳥鵲→所→啄
鳥のついばむ対象物になる⇒鳥についばまれる
というわけで、「為~所~」が被動句(受身の文)ということになるのです。「為鳥鵲之所啄」のように「之」の入った形でも、同じことです。
「或」は「あるいは」と副詞のように訓読しますが、実は代詞(代名詞)です。「あるもの」(someone)という意味の無定代詞(不定代名詞)です。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |||
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謂詞 | 賓語=主謂短語(所字短語&之字単語) | |||
主詞 | 謂詞(所字短語) | |||
或 | 為 | 鳥鵲 | 所啄。 |
この句は、「鳥鵲の啄む所と為る」と訓読しましたが、「鳥鵲の為に啄ばまる」という訓読も存在します。しかし、この読み方は文法的には誤りです。なぜかというと、「為」は「ために」と読む場合は介詞で去声(wei)です。しかし、この「為」は被動詞と呼ばれる動詞で、平声(wei)に読みます。だから、動詞のように「なる」と読むべきです。
「鳥鵲の為に啄ばまる」という読み方は古くからありますが、被動句(受身の文)らしく訓読しようとして、語法を無視した無理な読み方なのです。しかしながら、この読み方は実際には「鳥鵲の啄む所と為る」という読み方よりも広範囲で行われていたようで、明治普通文(漢文訓読体の文章)でもよく目にします。ですから、正しくはないけれども、あながちに排斥するには及びません。
【例句2】
此木不為人所喜。(蘇軾『遊定恵院記』)
(訓読)此の木は人の喜ぶ所と為らず。
(現代語訳)この木は、人には喜ばれない。
所→喜
喜ばしく思う対象物
人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物
為 人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物になる⇒人に喜ばれる
不→為 人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物にならない⇒人には喜ばれない
主語(主部)=定中短語 | 謂語(述部)=述賓短語 | ||||
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[定語] | 主詞 | [状語] | 謂詞 | 賓語(所字短語=主謂短語) | |
主詞 | 賓語(所字短語) | ||||
[此] | 木 | [不] | 為 | 人 | 所喜。 |
2007年11月11日公開。