日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第4節 特殊な短語




(9)所字短語5 所字短語による被動句

 主謂短語の所字短語は、被動詞「為」の賓語となる場合には、被動句(受身の文)を形成します。被動詞「為」は動詞の一種です。

【例句1】

或為鳥鵲所啄。(蘇軾『志林』)

(訓読)(あるい)鳥鵲(ちようじやく)(つい)ばむ(ところ)()る。

(現代語訳)あるものは、鳥についばまれてしまった。

所→啄
ついばむ対象物

鳥鵲→所→啄
鳥のついばむ対象物

為 鳥鵲→所→啄
鳥のついばむ対象物になる⇒鳥についばまれる

 というわけで、「為~所~」が被動句(受身の文)ということになるのです。「為鳥鵲之所啄」のように「之」の入った形でも、同じことです。

 「或」は「あるいは」と副詞のように訓読しますが、実は代詞(代名詞)です。「あるもの」(someone)という意味の無定代詞(不定代名詞)です。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
謂詞賓語=主謂短語(所字短語&之字単語)
主詞謂詞(所字短語)
鳥鵲所啄。

 この句は、「鳥鵲の啄む所と為る」と訓読しましたが、「鳥鵲の為に啄ばまる」という訓読も存在します。しかし、この読み方は文法的には誤りです。なぜかというと、「為」は「ために」と読む場合は介詞で去声(wei)です。しかし、この「為」は被動詞と呼ばれる動詞で、平声(wei)に読みます。だから、動詞のように「なる」と読むべきです。

 「鳥鵲の為に啄ばまる」という読み方は古くからありますが、被動句(受身の文)らしく訓読しようとして、語法を無視した無理な読み方なのです。しかしながら、この読み方は実際には「鳥鵲の啄む所と為る」という読み方よりも広範囲で行われていたようで、明治普通文(漢文訓読体の文章)でもよく目にします。ですから、正しくはないけれども、あながちに排斥するには及びません。

【例句2】

此木不為人所喜。(蘇軾『遊定恵院記』)

(訓読)()()(ひと)(よろこ)(ところ)()らず。

(現代語訳)この木は、人には喜ばれない。

所→喜
喜ばしく思う対象物

人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物

為 人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物になる⇒人に喜ばれる

不→為 人→所→喜
人が喜ばしく思う対象物にならない⇒人には喜ばれない

主語(主部)=定中短語謂語(述部)=述賓短語
[定語]主詞[状語]謂詞賓語(所字短語=主謂短語)
主詞賓語(所字短語)
[此][不]所喜。



2007年11月11日公開。

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