次に、「者」の前に、長い主謂短語(主謂短語も名詞性短語です)が置かれている例を見ていただきましょう。この場合も、「主謂短語+者」が一つの名詞性短語になっています。
【例句1】
今天下屯聚之兵、驕豪而多怨、陵圧百姓而邀其上者、何故。(蘇軾『教戦守』)
(訓読)今、天下屯聚の兵は、驕豪にして怨み多く、百姓を陵圧して其の上を邀ぎる者は、何故ぞや。
(現代語訳)現在、地方駐屯の軍隊は、驕り高ぶり、怨恨も多く、人民を押さえつけ、上役にも反抗するのは、どうしてだろうか。
今天下屯聚之兵驕豪而多怨陵圧百姓而邀其上→者
これでひとつの「者字短語」であり、一つの名詞性短語です。これは、どんなに長いフレーズでも一つの名詞にしてしまう「者」という結構助詞の威力を見ていただくために出した例ですから、「こんな長いのは、よく分からない」と嘆く必要はありません。
主語(主部)=者字短語 | |||||||||
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主謂短語 | 者字 | ||||||||
主語(時間主語) | 謂語=主謂短語 | ||||||||
主語=之字短語 | 謂語=聯合短語 | 謂語=聯合短語 | |||||||
謂詞 | <連詞> | 謂詞=述賓短語 | 謂詞=述賓短語 | <連詞> | 謂詞=述賓短語 | ||||
今 | 天下屯聚之兵 | 驕豪 | <而> | 多怨、 | 陵圧百姓 | <而> | 邀其上 | 者、 |
謂語(述部)=定中短語 | |
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[定語] | 謂詞 |
[何] | 故。 |
上の句で、「者字短語」の構成要素である主謂短語の主語を「今」としたことについては、異論があるかもしれません。これは句頭に提示された実詞または短語を主語とする考え方によるもので、この考え方を取る場合には「時間主語句」を認めるのが普通です。このような考え方がだんだん主流になりつつあります。(李佐豊著『古代漢語語法学』、中国:商務印書館、406ページを参照。)
なお、「何故」の「故」は副詞の場合は「ゆえに」と訓読しますが、この場合のように「理由」という意味の名詞の場合は「ゆえ」と訓読します。
このように、「者字短語」は恐ろしく長いものも可能であり、「者」字によって一つの名詞性短語になってしまいます。
2007年11月11日公開。