日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第4節 特殊な短語




(1)者字短語1

 この節では、「特殊な短語」である「者字短語」と「所字短語」を扱います。

 「者」は、訓読では「もの」と読みます。「者」は不思議な詞で、「○○者」のように「者」のまえにくっついた詞(短語)と一体化して一つの名詞(または名詞性短語)になるのです。「者」の品詞は結構助詞であるとされています。

 さて、「者」は、「○○なる者(もの)」、「○○する者(もの)」などと訓読しますが、まれに「○○する者(こと)」、「○○する者(ところ)」と訓読されることもあります。「者」字の前に置かれる詞や短語は、たった一字でもよく、逆にどんなに長い主謂短語であってもよいのです。

 まず、「者」の前に動詞・形容詞がくっついて、二字の複合詞になる例を見てみましょう。

 形容詞+「者」で時間詞(時間を表す名詞)になるもの

古+者 → 古者(むかし)

昔+者 → 昔者(むかし)

今+者 → 今者(いま)

 動詞・形容詞+「者」 で、人を表す名詞になるもの

智+者 → 智者(知恵のある人)

愚+者 → 愚者(愚かな人)

憂+者 → 憂者(うれえる人)

病+者 → 病者(病人)

 動詞性の複合詞+「者」でも人を表す名詞になります。この場合は、複合詞というよりも短語と見てよいでしょう。

流涕+者 → 流涕者(涙を流す人)

【例句1】

父老過之、有流涕者。(蘇軾『表忠観碑』)

(訓読)父老(ふろう)(これ)(よぎ)り、(なんだ)(なが)(もの)()り。

(現代語訳)土地の老人の中には、その前(呉越国王銭氏の荒れ果てた墓の前)を通りかかって、涙を流す者もある。

 これは、2つの句からなっています。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
謂詞賓語
父老

謂語(述部)=述賓短語
謂詞賓語=者字短語
流涕者。



2007年11月11日公開。

ホーム > いざない > 漢文と日本文化 > 者字短語1

ホーム > いざない > 漢文と日本文化 > 者字短語1