日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第3節 主謂短語




(11)有無句の主謂賓語(ネクサス目的語)

 有無句が主謂賓語(ネクサス目的語)を取る場合については、誰でも知っている次の句を例句として挙げるべきでしょう。

【例句1】

有朋自遠方来、不亦楽乎。(『論語』学而篇)

(訓読)(とも)遠方(えんぽう)()(きた)()るは、(また)(たの)しからずや。

(現代語訳)遠方から訪ねてきてくれる友達がいるのも、楽しいことではないか。

主語(主部)=動賓短語謂語(述部)
謂詞賓語=主謂短語
主語[状語]謂語[状語][状語][状語]謂語
[自遠方]来、[不][亦]<乎>。

 上の訓読を見て、慣れ親しんだものとは違うと思われたかもしれません。この句の中で「有朋自遠方来」の部分について、見てみましょう。この部分を独立した句と考えると、無主句・第2句式になります。

有朋自遠方来。

(訓読)(とも)遠方自(えんぽうよ)(きた)()り。

(現代語訳)遠方から訪ねてきてくれる友達がいる。

謂語(述部)=動賓短語
謂詞賓語=主謂短語
主語[状語]謂語
[自遠方]来。

「朋の遠方より来たる有り」と上のように訓読するのが、主謂賓語(ネクサス目的語)の標準的な訓読法です。しかし、この部分は、次のように訓読されるほうが多いのではないでしょうか。

(訓読2)(とも)()り。遠方(えんぽう)()(きた)る。

 『論語』は、応神天皇の御世に、王仁(わに)博士がわが国に始めてもたらした漢籍であり、それ以来二千年ちかく国民に親しまれてきた古典です。「朋あり、遠方より来たる」という訓読が固定したのは、非常に古い時代であると思われます。ですから、標準的な訓読法にあわないから、この読み方はダメだということにはなりません。これは古人が漢籍を受容する過程で試行錯誤を繰り返した痕跡ですから、伝統的訓読として珍重すべきものだと思います。



2007年11月11日公開。

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