日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第3節 主謂短語




(8)之字短語がネクサスとなる場合4 介詞+主謂主語

 主語たる之字短語の前に「方」「当」の字が置かれる場合について見ておきましょう。

 「方」「当」は、訓読で「あたる」と動詞のように読みますが、実は「その時節に当面する」という意味の介詞です。

【例句1】

方秦之未得志也、使復有一孟子、則申韓為空言。(蘇軾『六一居士集序』)

(訓読)(しん)(いま)(こころざし)()ざるに(あた)りて()()(ひとり)孟子(もうし)()使()めば、(すなわ)(しん)(かん)空言(くうげん)()りしならん。

(現代語訳)秦がまだ天下を統一していない時に、孟子のような人物が再び出現していたならば、申不害や韓非子の学問は(世に行われず)空言となっていたであろうに。

 この句で「孟子あらしめば」の部分の「使」は訓読では「~しめば」と使令句(使役文)のように読んでいますが、実は仮定を表す連詞です。ですから「使」の字は「もし」と訓読することも可能です。「使有~」は「もし~があったならば」と慣用的に使われるフレーズです。

 この句では「使復有一孟子、則申韓為空言」の部分も主謂短語と見るべきです。

主語(主部)=主謂短語(之字短語)
<介詞> 主語之字謂語=状中短語<助詞>
[状語]述賓短語
謂語賓語
<方>[未]<也>、

謂語(述部)=主謂短語
主語=述賓短語謂語=主謂短語
<連詞>[状語]述賓短語<連詞>主語謂語=述賓短語
謂詞賓語謂語賓語
<使>[復]一孟子、<則>申韓空言。



2007年7月16日公開。

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