日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第3節 主謂短語




(7)之字短語がネクサスとなる場合3 主謂主語+主謂謂語

 次の例は、主謂短語(ネクサス)である「之字短語」が主語となり、さらに主謂短語(ネクサス)が謂語となっているものです。

【例句1】

章懿之崩、李淑護葬。(蘇轍『龍川別志』)

(訓読)章懿(しようい)(ほう)ずるや、李淑(りしゆく)(そう)(まも)る。

(現代語訳)章懿(しょう・い=人名)が亡くなったとき、李淑(り・しゅく=人名)が葬式の世話をした。

主語(主部)=主謂短語(之字短語)謂語(述部)=主謂短語
主語之字謂語主語謂語賓語
章懿崩、李淑葬。

 訓読の図式は次のようになります。

主語謂語
主 謂主  謂
A之B(也)C  D。
A の B するやC(は)Dす。

主語謂語
主 謂主  謂
章懿之崩、李淑護葬。
章懿の崩ずるや李淑葬を護る。
(At the time of)Zhang Yi’s deathLi Shu gave him a funeral.

 まれに、主語の之字短語で「之」字が省略されている場合があります。

【例句2】

夫子房受書於圯上之老人也、其事甚怪。(蘇軾『留公論』)

(訓読)()子房(しぼう)(しよ)圯上(いじよう)老人(ろうじん)()くる()()(こと)(はなは)(あや)し。

(現代語訳)そもそも子房(漢の張良)が書物を土橋の上の老人からもらったということは、はなはだ怪しい話である。

主語(主部)=主謂短語(之字短語)謂語(述部))=主謂短語
<助詞>主語之字双賓短語主語状中短語
謂語賓語賓語[状語]賓語
<夫>子房(之)(於)圯上之老人也其事[甚]

 この句の主語となっている主謂短語は、通常なら之字短語になるべきところですが、「圯上之老人」の「之」字と重なるためリズムの関係で「之」字が省略されたのです。ですから、訓読では之字短語のように「子房の・・」と「の」を入れて読みます。

 ただし、「之」字が重なっていてもリズム上問題がない場合には省略されない場合もあります。

【例句3】

久矣、世之畏諸侯之禍也。

(訓読)(ひさし)いかな、()諸侯(しよこう)(わざわい)(おそ)るるや。

(現代語訳)ずいぶん長い歴史があるのだ、世間で諸侯を立てることによる弊害を恐れることには。

 上の句では、「世之畏諸侯之禍也」と「之」字が二回出ていますが、「世畏諸侯之禍也」のように省略されていません。これは、「世」が一文字しかないので、「世之」と二文字にしたほうが、リズムが良いからです。

 この句は、いわゆる倒装(倒置)の例句でもあります。主語と謂語が倒装されています。之字短語が主語となる句では、よくこのような倒装が行われます。

謂語(述部)主語(主部)=主謂短語(之字短語)
謂語<助詞>主語之字謂語=述賓短語<助詞>
謂詞状中短語(之字短語)
<矣>、諸侯之禍<也。>



2007年7月16日公開。

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