日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第3節 主謂短語




(6)之字短語がネクサスとなる場合2 「於」の用法

 次の例句も主謂短語(ネクサス)が「之字短語」の形で主語となる場合の一種です。

【例句1】

父母之於子、人倫之極也。(蘇轍『古今家誡序』)

(訓読)父母(ふぼ)()()けるや、人倫(じんりん)(きわ)(なり)

(現代語訳)親子の関係こそは、人倫の中で最も大切なものである。

 之字短語「父母之於子」は、「父母が子を扱うやりかた」、「父母が子に対する関係」というような意味です。これも一種のネクサス名詞です。

主語(主部)=主謂短語(之字短語)謂語(述部)
主語(之字)謂語=述賓短語謂詞=定中短語(之字短語)<句末助詞>
謂詞賓語
父母子、人倫之極<也>。

(参考英訳)

父母之於子、人倫之極也。
主語謂語
父母の子に於けるや人倫の極みなり。
Parent-child relationship is the basis for morality.

 之字短語という形ではなく、「之」字のない「父母於子(也)」の形で、同様のネクサスを表すこともあります。

【例句2】

日之与鐘・籥亦遠矣。(蘇軾『日喩』)

(訓読)()(かね)(ふえ)(おけ)るや(また)(とお)し。

(現代語訳)太陽は、鐘や笛とは全然違うものだ。

 これは「於」の変わりに「与」の字を使った例です。この場合はふつう、「与」を「おける」と「於」の字と同じように訓読します。(「与」を「~と」と訓読し、「日の鐘・籥と、また遠し」と訓読する人もありますが、私は感心しません。)

主語(主部)=主謂短語(之字短語)謂語(述部)=状中短語
主語(之字)謂語=述賓短語[状語]謂詞<句末助詞>
謂詞賓語
鐘・籥、[亦]<矣>。



2007年7月16日公開。

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