漢文では、形容詞は動詞の一部です(李佐豊氏は形容詞を「状態動詞」に含めています。同氏著『古代漢語語法学』、中国:商務印書館、131ページ)。動詞の一種だから、形容詞も賓語を取ることがあります。賓語を取るからといって、「形容詞が動詞に品詞転換している」などと考える必要はありません。
【例句1】
<意動賓語>
時人両賢之。(蘇軾『司馬温公行状』)
(訓読)時人両に之を賢とす。
(現代語訳)同時代の人人は、龐籍(ほう・せき=人名)と司馬温公は二人とも賢人であると評した。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞=状中短語 | 賓語 |
時人 | [両] 賢 | 之。 |
この句では、述賓短語の中に状中短語があるので、複雑そうにみえますが、それほど大したことはありません。
形容詞が賓語を取る場合、訓読では「○○とす」のように読みます。これは「○○だと思った」「○○だと評した」というような意味です。このような賓語は「意動賓語」と呼ばれています。
もう一つ意動賓語の例を挙げておきます。
【例句2】
<意動賓語>
爾安敢軽吾射。(欧陽脩『帰田録』)
(訓読)爾安んぞ敢えて吾が射を軽んずるや。
(現代語訳)お前はどうして私の弓の腕前をけなしたりするのか。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞=状中短語 | 賓語 |
爾 | [安] [敢] 軽 | 吾射。 |
上の例は、「軽い」という形容詞を「軽んずる」と動詞的に訓読しています。「遠」「近」などの形容詞も動詞的に「遠しとす」「近しとす」と訓読することがあります。「不遠千里」は「千里を遠しとせず」です。
2007年7月16日公開。