日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第2節 詞と短語




(9)述賓短語1 賓語(目的語)のいろいろ

 述賓短語とは、「動詞・形容詞+その賓語(目的語)」という形式になる短語です。

 賓語(目的語object)とは、動詞・形容詞の後ろに置かれ、動詞・形容詞の影響を受ける実詞(もしくは短語)のことです。

 述賓短語は主語にも謂語にもなることができます。謂語になる場合は、第2句式となります。

 賓語の種類により、述賓短語はいくつかのパタンに分かれます。

【例句1】

<受事賓語>

婦人汲水。(陸游『入蜀記』10月13日)

(訓読)婦人(ふじん)(みず)()む。

(現代語訳)婦人が水を汲んでいる。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
主語謂詞賓語
婦人水。

 賓語である名詞「水」は動詞「汲」の動作の影響を直接に受けています。このような賓語を「受事賓語」と呼びます。

 述賓短語では、訓読のときに「水(賓語)」を「汲む(動詞)」のように、助詞「を」を差しはさみ、動詞と賓語の位置を入れ替えて、日本語の語順に直して読みます。※

※このように、日本語の語順にひっくり返して読むことを「返り読み」(または「返読」ヘンドク)といいます。有名な訓読の用語で「ヲニト返る」(「鬼と帰る」というつもりか?つづりは違いますが。)というのがありますが、これは訓読において、漢文の賓語と動詞を日本語の語順に入れ替えた場合、賓語と動詞の間に日本語の助詞「を」「に」「と」を挿入することを指します。

(訓読の工夫 図解)

動詞賓語
    ╳
汲む

【例句2】

<結果賓語>

簡棲為此碑。(陸游『入蜀記』8月26日)

(訓読)簡棲(かんせい)()()(つく)る。

(現代語訳)簡棲(かんせい=人名)は、この石碑を作った。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
主語謂詞賓語
簡棲此碑。

 この句では、賓語「この碑」が、動詞「為」(つくるwéi)という行為の結果として作られています。このような賓語を「結果賓語」と呼びます。

【例句3】

<対象賓語>

(余)観蜀江。

(訓読)()蜀江(しよくこう)()る。

(現代語訳)私は蜀江を見た。

※陸游の『入蜀記』は、日記体なので、全編一人称の代詞「余」は使用されず無主句になっています。日記体で一人称の代詞が使用されないのは万国共通です。ここでは、説明の便宜上、主語「余」を補っています。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
主語謂詞賓語
(余)蜀江。

 賓語「蜀江」は、動詞「観」の対象です。しかし、賓語「蜀江」は「観」という動作により影響を被って変化することはありません。このような賓語を「対象賓語」と呼びます。

【例句4】

<致使賓語>

水声恐人。(陸游『入蜀記』10月8日)

(訓読)水声(すいせい)(ひと)をして(おそ)れしむ。

(現代語訳)水の音は恐ろしいくらいだ。

 これは、動詞「恐」は、賓語「人」に「させる」という使役の意味を含んでいます。こういう賓語を「致使賓語」といいます。

主語(主部)謂語(述部)=述賓短語
主語謂詞賓語
水声人。


2007年7月16日公開。

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