述賓短語とは、「動詞・形容詞+その賓語(目的語)」という形式になる短語です。
賓語(目的語object)とは、動詞・形容詞の後ろに置かれ、動詞・形容詞の影響を受ける実詞(もしくは短語)のことです。
述賓短語は主語にも謂語にもなることができます。謂語になる場合は、第2句式となります。
賓語の種類により、述賓短語はいくつかのパタンに分かれます。
【例句1】
<受事賓語>
婦人汲水。(陸游『入蜀記』10月13日)
(訓読)婦人水を汲む。
(現代語訳)婦人が水を汲んでいる。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞 | 賓語 |
婦人 | 汲 | 水。 |
賓語である名詞「水」は動詞「汲」の動作の影響を直接に受けています。このような賓語を「受事賓語」と呼びます。
述賓短語では、訓読のときに「水(賓語)」を「汲む(動詞)」のように、助詞「を」を差しはさみ、動詞と賓語の位置を入れ替えて、日本語の語順に直して読みます。※
※このように、日本語の語順にひっくり返して読むことを「返り読み」(または「返読」ヘンドク)といいます。有名な訓読の用語で「ヲニト返る」(「鬼と帰る」というつもりか?つづりは違いますが。)というのがありますが、これは訓読において、漢文の賓語と動詞を日本語の語順に入れ替えた場合、賓語と動詞の間に日本語の助詞「を」「に」「と」を挿入することを指します。
(訓読の工夫 図解)
動詞 | 賓語 | ||
汲 | 水 | ||
╲ | ╱ | ||
╳ | |||
╱ | ╲ | ||
水 | を | 汲む |
【例句2】
<結果賓語>
簡棲為此碑。(陸游『入蜀記』8月26日)
(訓読)簡棲、此の碑を為る。
(現代語訳)簡棲(かんせい=人名)は、この石碑を作った。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞 | 賓語 |
簡棲 | 為 | 此碑。 |
この句では、賓語「この碑」が、動詞「為」(つくるwéi)という行為の結果として作られています。このような賓語を「結果賓語」と呼びます。
【例句3】
<対象賓語>
(余)観蜀江。
(訓読)余、蜀江を観る。
(現代語訳)私は蜀江を見た。
※陸游の『入蜀記』は、日記体なので、全編一人称の代詞「余」は使用されず無主句になっています。日記体で一人称の代詞が使用されないのは万国共通です。ここでは、説明の便宜上、主語「余」を補っています。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞 | 賓語 |
(余) | 観 | 蜀江。 |
賓語「蜀江」は、動詞「観」の対象です。しかし、賓語「蜀江」は「観」という動作により影響を被って変化することはありません。このような賓語を「対象賓語」と呼びます。
【例句4】
<致使賓語>
水声恐人。(陸游『入蜀記』10月8日)
(訓読)水声人をして恐れしむ。
(現代語訳)水の音は恐ろしいくらいだ。
これは、動詞「恐」は、賓語「人」に「させる」という使役の意味を含んでいます。こういう賓語を「致使賓語」といいます。
主語(主部) | 謂語(述部)=述賓短語 | |
---|---|---|
主語 | 謂詞 | 賓語 |
水声 | 恐 | 人。 |
2007年7月16日公開。