日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第三章 日本漢字音と字音かなづかい




(6)古音(こおん)

 漢字音には吳音・漢音よりも古い「古音」があります。「古音」は「吳音」よりもずっと古い、周・漢のころの音です。

 古音の存在に最初に気づいたのは日本人でした。江戸時代の漢学者・山梨稲川(やまなし・とうせん、1771-1826)は『説文解字(せつもんかいじ)』という漢代にできた字書を研究するうちに、古音の存在に気づきました。稲川先生の方法は、漢字を偏や冠で分類するのではなく、旁(つくり)で分類するというものでした。たとえば台・怡・始は、それぞれ漢音ではタイ・イ・シという音ですが、『説文解字』にはすべて「シの声」とあり、古音では同音であったと分かります。稲川先生の研究は、中国の「清朝考証学」にも先立つ、すぐれたものでしたが、後継者がなかったため絶学となってしまいました。(内藤湖南「先哲の学問」、『内藤湖南全集9』、筑摩書房、480ページを参照)

 余談ですが、推古朝の遺文の万葉仮名として、吳音よりも古い漢字音が使用されているそうです。沼本博士の『日本漢字音の歴史』(前掲)には、奇=カ、移=ヤ、意=オ、里=ロ、などの例が挙げられています(同書62ページ)。しかし、これらは朝鮮経由で入ってきた音であり、中国古代の古音が直接入ってきたものではない、との説が有力であるようです。



2004年11月3日公開。

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