日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第三章 日本漢字音と字音かなづかい




(1)三種類の日本漢字音

 ここで改めて日本漢字音について説明しておきます。日本漢字音とは、日本語で漢字を音読みにするときの音のことです。

 日本漢字音はもともと中国から伝わった漢字音がもとになっています。しかし、日本漢字音は中国から伝わったそのままの音ではなく、日本語に溶け込んで日本語化したものです。一方、中国でも漢字の音はどんどん変わっていきましたので、現在の中国語の漢字音と日本漢字音は、かなり異なるものになっています。

 日本の漢字音は、吳音(ごおん)・漢音(かんおん)・唐音(とうおん)の3種類があるとされています。「行」の字を例に取れば、吳音が「ギヤウ(ギョウ)」、漢音が「カウ(コウ)」、唐音が「アン」です。「アン」というのはあまり聞きなれない音かもしれませんが、「アンドン」(行灯)の「アン」がこれです。

 これらの三つの音は、それぞれ吳音が上古、漢音が奈良・平安朝、唐音は近世(江戸時代)に伝わった音とされています。この三つの音の伝来に関する歴史的過程を最初に指摘した人は、本居宣長(もとおり・のりなが、1730-1801)です。彼の『漢字三音考』(『本居宣長全集5』、筑摩書房、所収)は、たいへんラディカルな本です。ただ、これは江戸時代の本なので、信頼できない部分もあります。最近の概説書では、沼本克明(ぬまもと・かつあき)博士の『日本漢字音の歴史』(東京堂出版)が分かり易いので、お勧めします。



2004年11月3日公開。

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