日本漢字音では(9)で述べたように、入声以外の声調は失われてしまったのですが、金田一春彦(きんだいち・はるひこ)博士は、日本語のアクセントの歴史的変遷について研究される中で、仏教の「声明(しょうみょう)」や、古代の文献で声調に言及したもの、諸方言に残されたアクセントを詳細に調査され、古代における日本漢字音の声調を推定されました(「日本四声古義」、『日本語音韻音調史の研究』、吉川弘文館、所収)。それを非常に単純化して示しますと、次のようになります。
平声 低平調(うち軽声は微下降調)
上声 高平調
去声 顕著な上昇調
入声 低平調の入破音(うち軽声は高平調の入破音)
そこで、これに基づいて、『論語』の冒頭の文章を、日本漢字音の漢音で、声調をつけて読んでみます。平声を_、上声を‾、去声を╱、入声をrで表しますので、平声は低く、上声は高く、去声は低い音から高い音へと上昇するように、入声は詰まるように、読んでみてください。なお、平声と入声の「軽声」については、むずかしいので、ここでは無視することにします。字音かなづかいは、「歴史的かなづかい」とします。
子 | 曰、 | 学 | 而 | 時 | 習 | 之、 | 不 | 亦 | 説 | 乎。 |
‾ | r、 | r | _ | _ | r | _、 | r | r | r | _ |
有 | 朋 | 自 | 遠方 | 来、 | 不 | 亦 | 楽 | 乎。 |
‾ | _ | ╱ | ‾ _ | _、 | r | r | r | _ |
人 | 不 | 知 | 而 | 不 | 慍、 | 不 | 亦 | 君子 | 乎。 |
_ | r | _ | _ | r | ╱ | r | r | _ ‾ | _ |
いかがですか? 面白いでしょう? このような音読法もあります。漢和辞典で日本漢字音の歴史的かなづかいと声調とをしらべて、気楽に読んでみてください。
2004年11月3日公開。