漢文の読み方に関して、「中国語で音読するのが正当な読み方」だ、という強硬な主張があります。これは「訓読法は廃止せよ」という主張につながってきます。面白いことに、こういう主張は古代から繰り返されてきました。
平安時代には、桓武天皇(かんむ・てんのう、737-806)が、当時遣唐使がもたらした最新の中国音である「漢音」を用いて漢籍を読むことを奨励されています。延暦11年(792年)閏11月の勅に、次のようにあります。
(原文)勅。明経之徒、不可習吳音。発声誦読、既致訛謬。熟習漢音。
(訓読)勅す。明経の徒は、吳音を習う可らず。発声・誦読、既に訛謬を致せり。漢音を熟習せよ。
これは、それまでの古い「吳音」を排斥して、あたらしい「漢音」を普及させることが目的でした。ただ、このころは「訓読」は未発達だったので、これは訓読廃止の命令ではなく、あくまで漢音奨励が目的だったと考えられます。
しかし「吳音」は当時すでに生活に溶け込んでおり、加えて仏教経典の読誦(どくじゅ)に用いられていたため、結局廃止することはできませんでした。吳音による仏典の読誦は、現在まで命脈を保っております。
2004年11月3日公開。