日本漢文の世界

 

英傑の遺墨が語る日本の近代



山県有朋(含雪) 七言絶句
やまがた・ありとも(がんせつ)


1838-1922。日露戦争時の参謀総長。のち首相。

山県有朋 七言絶句 日本漢文の世界 kambun.jp

[解読]

対峙両軍今若何(韻)
戦声恰似迅雷過(韻)
奉天城外三更雪
百万精兵渡大河(韻)
(七言絶句。平声歌韻)
     含雪

[訓読]

対峙(たいじ)す、両軍(りょうぐん)(いま)若何(いかん)
戦声(せんせい)(あたか)()る、迅雷(じんらい)()ぐるに
奉天(ほうてん)城外(じょうがい)三更(さんこう)(ゆき)
百万(ひゃくまん)精兵(せいへい)大河(たいが)(わた)
    含雪(がんせつ)

[語釈]

対峙(たいじ)
 日露両軍が向き合ったまま動かないこと。両軍は日本軍が始動するまで10日以上対峙していた。

(いま)若何(いかん)
 今の両軍の様子はどうか、という意。「若何」は「如何」に同じ。

戦声(せんせい)
 鬨(とき)の声。吶喊(とっかん)。

迅雷(じんらい)
 激しい雷。

奉天(ほうてん)
 現在の瀋陽。日露戦争最大の陸戦地。

三更(さんこう)
 深夜十二時前後。

百万(ひゃくまん)精兵(せいへい)
 奉天会戦における日本軍の実勢は25万。(対するロシア軍は37万。)

大河(たいが)
 奉天近くを流れる大遼河のこと。会戦のあった3月ころは川が凍結しており、軍馬が凍結した川面を渡って移動することが可能だった。

[訳]

日露両軍は長らく対峙していたが、いまの様子はどうだ?
戦場の吶喊は、まるで急に激しい雷に遭ったようだ。
奉天の町の外には真夜中に雪がしんしんと降っている。
その中を百万の精兵が大河を渡ってゆく。
          含雪

2009年3月28日公開。2009年6月17日一部修正。

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