日本漢文の世界

 

英傑の遺墨が語る日本の近代



白瀬矗
しらせ・のぶ


1861-1946。陸軍中尉。探検家として南極を探検。

白瀬矗 日本漢文の世界 kambun.jp

[解読]

時事感へなぶり
満州の国境荒らす蒙古兵不法の蛮行
匪賊同様
東洋の平和の空に一抹の怪雲見ゆる
北西の天(露夫)
日の丸に吼ゆる(狂犬)ピットマン
位山高き人々気を付け上り過ぎると
谷底へ落つ

[読み方]

時事(じじ)(かん)へなぶり 満洲(まんしゅう)国境(こっきょう)()らす蒙古兵(もうこへい)不法(ふほう)蛮行(ばんこう)匪賊(ひぞく)同様(どうよう)
東洋(とうよう)平和(へいわ)(そら)に、一抹(いちまつ)怪雲(かいうん)()ゆる、北西(ほくせい)(てん)露支(ろし))・()(まる)()ゆる(狂犬(きょうけん))ピットマン
位山(くらいやま)(たか)人々(ひとびと)()()け、(のぼ)()ぎると谷底(たにぞこ)()

[語釈]

へなぶり
 明治30年代に流行した狂歌の新様式。
蒙古兵(もうこへい)
 満洲国とモンゴル人民共和国の国境で昭和14年(1939年)5月に起った「ノモンハン事件」を指す。同事件は、9月に停戦が成立したが、日本軍とソ連軍の双方に多大な犠牲を出した。
怪雲(かいうん)
 形や姿の異様な雲。ここでは、東洋の平和を乱す他国の動向を怪雲に譬えている。
露支(ろし)
 ロシア(ソ連)と支那(中国)。当時日本は、ロシアとの間にノモンハン事件が起こり、中国との間に盧溝橋事件が起っていた。
ピットマン
 Key Denson Pittman(1872-1940)。アメリカの上院議員。日本が満洲に権益を持つことを懸念し、中国の銀貨をアメリカの金貨との交換を認める昭和9年(1934年)の「ピットマン法」の成立に尽力した。これにより、中華民国の武器調達能力は増加した。
位山(くらいやま)
 地位が上がって行くことを、山に譬えた言い方。

[訳]

時事に対する感慨を詠んだ「へなぶり」
満洲の国境を荒らすモンゴル兵の怪しからん蛮行は、匪賊同様だ。
東洋の平和の空に、かすかに怪しい雲が見える。北西の空の怪しい雲は、ソ連と中国だ。そして、日の丸に吼える狂犬ともいうべきピットマン氏だ。
地位がどんどん上がっている人たちは、気をつけたまえ。上がり過ぎると、谷底へ落ちてしまうぞ。

2010年9月12日公開。

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